ここに訳出した記事、『It’s Not Easy Being Green』は、タイ屋さんによって既に翻訳されています。http://web.archive.org/web/20090207140740/http://members.at.infoseek.co.jp/braingeyser/02/1112.html
 原文、翻訳ともに発表されてから長い年月が経っており、またカラーパイに関する文献も多くなったので、ここに新たに訳出するのも了承していただけるだろう、と期待して呈する限りです。

≪緑でいるのは楽じゃない――最も誤解された色≫
原題:It’s Not Easy Being Green ―― The most misunderstood color
Mark Rosewater
2002年10月21日
http://archive.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/mr43
【ドラマ「セサミストリート」の挿入歌に「It’s not easy being green」というフレーズが出てくる】

 緑の週間へようこそ! この週で我々は、自然と成長の色を探求していくつもりだ。これは、兎にも角にも、マジックの色に専心する五回のテーマ週間の最初のものだ。今後の色の週間は今年の終わりから来年の初めにかけてお披露目する予定だ。
 過去のコラムで言及してきたように、リチャード・ガーフィールドがマジックというゲームを作った際の最も革新的な創造物、その一つはカラーホイールである、そう私は考えている。カラーホイールはゲームのフレーバーとメカニクスのそれぞれ全ての面を結び合わせるものだ。私にとってこれこそがマジックの核心だ。このような経緯で、どのようにカラーホイールが動作するかを理解するために、私は膨大な時間を費やしてきた。
 何ヶ月も前に私は『嫌悪は十二分:Hate Is Enough』という、なぜ色が互いに嫌悪するのかを説明する記事を書いた。これはカラーホイールの徹底的な洞察を紹介するものとしては私の最初の企画だった。今日もそういった紹介を、ある特定の色のフレーバーと哲学に焦点を絞ることによって続けていこうと思う。今日が緑の週間ということになっているのも、緑から始めるのが最良だと私は考えたからだ。

●ホイールは回り続ける
 二年ほど前、研究デザイン部はカラーホイールの研究のために、情報資源をまとめて整理することにした。我々は関係者全員を招集し、色とそれらの結びつきについて系統立てた研究を始めた。最初に我々が行なったのは五色それぞれを定義することだった。我々は以下のような問いを設定した。

・その色の関心事は何か? その色にとっての最終目標は何か?
・その目標に到達するために、その色はどんな手段を用いるか?
・その色の関心事は何か? その色が表象するものは何か?
・その色が軽蔑するものは何か? その色を否定的な方向に駆り立てるのは何か?
・その色が友好色を好み対抗色を嫌うのはなぜか?
・その色の最高の長所と最大の欠点は何か?

 この作業を補助するために、我々は研究デザイン部の壁の一つにカラーホイールを作り上げた。誰に対しても次のことが許可されていた、つまり、絵を切り取り、そのほとんどが個性【を表わす文字】だったが、それをホイールの中で属するに相応しいと感じる色へ貼り付けてみる、というものだ。十分な人数から異見が唱えられた際には、その絵は別の場所へ移された。この実習は非常に興味深く、いくつかの実例を後述するつもりだ。我々は色の定義の更なる改良を進め、総意を形成し始めた。そして我々は緑に関して重要なことを学んだ。それは、緑が理解するのに最も困難な色であるということだ。誰もが白や黒に関しては同一の平面に立っているように思えたが、緑については誰もが僅かに相異なる意見を持っていた。これが意味したのは、我々が緑を理解する際に一層多くの時間を費やしたという事情だが、ともあれ私は今日ここで我々の出した結論を君たちと共有しようと思う。

●その色の関心事は何か? その色にとっての最終目標は何か?
 各色の世界観はその色が最も価値を置くものから非常に重大な影響を受けている。緑が最も価値を置くものとは何か? 自然である。緑のものの観方によれば、世界はそれ自身を正しいものにしてきている。どんな躍動力【force】も、自然に勝って力強く、温和で、優雅なものはない。緑の最終目標は、ただ自然の筋書きを進展するがままにしておくことだ。緑は心の奥底から、心地好く腰を下ろし周りで生命が拡がっていくのを眺める、そのことだけを望んでいる。従って緑の究極の目標は成長ということになる。おそらく緑が最上の幸せを感じるは、自然が誰の干渉も受けずに拡大しているような世の中においてだろう。
 成長という主題は緑の至る所に悠々と力強く行き渡っている。緑は≪巨大化 / Giant Growth≫【インスタント。クリーチャー1体にターン終了時まで+3/+3修正】や≪踏み荒らし / Overrun≫【ソーサリー。自軍全体にターン終了時まで+3/+3修正とトランプル付与】といった呪文のように、一時的にクリーチャーを大きくする能力を持っている。長期でも緑は、≪激励の加護 / Invigorating Boon≫【エンチャント。サイクリングのたびにクリーチャー1体の上に+1/+1カウンターを乗せる】や≪捕食者の飢え / Predatory Hunger≫【オーラ。対戦相手が呪文を唱えるたびに+1/+1カウンターが乗る】のように、永続的にクリーチャーを大きくする呪文を数多く有している。加えて緑の成長は、≪カマールの召喚術 / Kamahl’s Summons≫【ソーサリー。手札から公開したクリーチャーカードの数だけ熊・トークンを出す】や≪ケンタウルスの地 / Centaur Glade≫【エンチャント。4マナ支払うごとにケンタウルス・トークンを出せる】などのトークン生成器にも見受けられる。また緑は≪マロー / Maro≫【パワーとタフネスが自分の手札の枚数に等しいクリーチャー】や≪土を食うもの / Terravore≫【パワーとタフネスが全墓地の土地の合計枚数に等しいクリーチャー】のような、時間が経つと勝手に成長するクリーチャーも多く有している。緑の成長は、プレイヤーが≪不屈の自然 / Rampant Growth≫【ソーサリー。ライブラリーから基本土地1枚を戦場に出す】や≪繁茂 / Wild Growth≫【オーラ。土地から追加の緑マナを得られる】などの呪文によって活用できる、土地やマナの量を加速させる能力の中にも見出すことができる。「成長 / growth」という用語が何度も出てきたことに気付いていただけただろうか? ゲームのメカニクスの面においては、緑は継続してより多くの資源を、つまりより多くの脅威を生産し、そのことによって対戦相手を屈服させるのだ。

●その目標に到達するために、その色はどんな手段を用いるか?
 緑にとっては不幸なことだが、全員がこの価値観を共有しているわけではない。そこで緑は、自然のあり方を守ることを自らの使命とするのだ。緑はこれを成し遂げるために自然の畏敬に満ちた力を、つまり原初の魔力とクリーチャーの群れの両方を獲得する。緑は自然の擁護者としての役割を高く評価する。従って緑が大きく信頼を寄せるものの中には、本能【あるいは直観】と、自然に見出される共生と、この二つが含まれている。これらのため、緑を予測することは困難になり、一方で緑は対戦相手を数の面で圧倒することが可能になる、というわけだ。
 この原理こそ、緑が「クリーチャーの色」であることの所以だ。これはゲームの多くの点に反映されている。第一に、緑は他のどの色よりも多くのクリーチャーを有している。オンスロートのコモンを見れば了解していただけるだろう。緑は実に16体のクリーチャーを有している。白は13体、黒は12体、青は11体、そして赤は10体だ。加えて、緑は特にコモンにおいて、比較的大きなクリーチャーを有している。そして最も重要なのは、マナの観点から見て最も効率の良いクリーチャーを緑が持っている、ということだ。一般的に、注ぎ込んだマナ以上のものを緑のクリーチャーから得ることができる。

●その色の関心事は何か? その色が表象するものは何か?
 緑は理想のために戦うのではなく、むしろ生命のあり方のために戦う。ここから緑が最も精神的な色であるということが導かれてくる。とはいえ最も宗教的というわけではない、その点では緑は白に譲っている。緑は個人よりも有機的構造の重要性の方を強調する。白の秩序と赤の混沌の間で均衡を取って、緑は自然の二元性を抱き止めるのだ。ある時には自然は物腰穏やかで愛に満ちている。別のある時には自然は獰猛で有害である。他のどの色も世界を変革させようと戦っているが、緑は世界を同質に維持するために戦っている。
 緑は次のものを表象している。生命(誕生)、成長、自然、実在(錯覚に対応する)、共同体、相互依存、精神主義、本能、動物。

●その色が軽蔑するものは何か? その色を否定的な方向に駆り立てるのは何か?
 緑は自然や自然のあり方を尊重しない者を看過することは決してしない。緑はそういったゴロツキを危険なものと見なし、彼らを打ち滅ぼそうと試みるだろう。もし君が緑と共にあろうとしないなら、君は緑と対立することになる。緑は貴重な友人だが、それより危険な敵対者でさえもある。緑は自分の主義主張を深く信じているもので、一切の慈愛を見せないだろう。
 不自然なものに対するこのような嫌悪は、緑のアーティファクトに対する憎悪がよって来たるところだ。これはまさに、我々のカラーホイールの研究を通じて生じた最も重要な移行の一つである。青緑の対立を吟味した際に、人工的なものに対する憎悪を緑に設定することによって、我々はいかにその輪郭が明瞭に定義されるか理解できたのだ。オンスロートの≪帰化 / Naturalize≫【インスタント。アーティファクトかエンチャント1つを破壊。かつては白い呪文だった】は、緑をアーティファクト破壊の中心にするための最初の移動だと言える。過去においても緑はアーティファクトを嫌っていたが、それは常に白と赤の後ろに続く三番手として位置づけられていた。これはまさに変わりつつある。緑はフレーバーの面で常に有してきた役割を、メカニクスの面でも果たすようになるだろう。もし君が何か人工的なものを作り出せば、緑がそれを破壊するだろう。
 またぞろ白を弱体化させるというのか、と感じる読者のために急いで書き加えておくが、カラーパイの再編は長期に渡って徐々に展開される過程として考えられている。総体的な苦心の成果をただ単一の【アーティファクト破壊という役割の】移行だけを見て評価するのは、甚だ不当だと言えよう。最後に訪れる結果は、各色にとって夕刻時【つまり一時代の終わり】であるはずだ。白と赤は現時点では低く、青と黒は現時点では高い。信頼していただく他ないのだが、最終的にはこれは全て均一化される。我々はどの色に対しても有用性を切り捨てようとは考えていない。また私が思うに重要なのは、これらの変更が軽率に行なわれているのでは決してないと強調しておくことだろう。我々はこれを適切に遂行するために多大な時間を費やしている最中にある。アーティファクトへの憎悪を緑へと移行する前に我々がいかに多くの労力を支払ったか、本日のコラムがそれを示す一助となることを願うばかりだ。

●その色が友好色を好み対抗色を嫌うのはなぜか?
 白について緑は、集団の重要性を理解する友好色の姿を見出す。大局的な構想は諸個人の命運よりも重要だということだ。また白は非常に平和的で生命に友好的な態度を有しており、このことが緑との関係を取り持っている。
 赤について緑は、本能の重要性を理解する友好色の姿を見出す、もっとも赤はかなり情動に重きを置いているようだが。緑と同様に赤は、言葉が間に合わない状況で行動が必要とされる状況、そういう瞬間を察知できるような野生の一面を持ち合わせている。赤の持つ破壊的な要素にもまた、緑と通じ合うものがある。
 青について緑は、自然の価値を尊重しない対抗色の姿を見出す。青の願望は、自然の全てを取り壊し、自身の人工的な世界を建設することだ。青は本能の重要性に対していささかの敬意を払わず、感情という腹からの声よりも知識の方を重んじることを選んでいる。青は常に冷淡で非人間的な未来を思い描き、過去の温かさを見捨てている。青が緑を破壊する前に、緑は先手を打って青を破壊しなければならない。
 黒について緑は、非常に自分勝手な色の姿を見出す。緑は生命の循環の重要性を理解している。すなわち死の役割にも畏敬の念を抱いている。その一方で黒は、自分自身の目的のために、死を自然に逆らって道具として利用する。もし緑が自然を守るつもりならば、黒がその捩じれた行動計画のために生きとし生けるもの全てを轢き殺す、その前に黒を止めなければならない。

●その色の最高の長所と最大の欠点は何か?
 緑は大地に遍く結びつくことで、呼び出して指揮することが意のままであるクリーチャーの大軍を擁している。もし緑が希えば原初の魔力はそれを聞き入れるだろう。緑の生命のあり方の負の側面は、危険を正確に察知することが自分の本能に完全に依拠している、ということだ。緑は性根からして他者を信じて疑わない。猫を被ることで緑の敵は、この純真さを自分の目的のために利用しうるのだ。
 このことが緑の最大の欠点へと、つまり生物への干渉が不可能であることへと発展していく。緑は人工的な物体を破壊することに何の躊躇も持たない。緑がアーティファクトやエンチャントを薙ぎ払うのは妥当だろう。土地を破壊することによって、対戦相手とマナの結びつきを引き裂くことさえ可能だろう。しかしながら緑は、対戦相手のクリーチャーを破壊する気にはどうしてもなれない。少数の例外はあるものの、概して緑は他の生き物を殺そうとはしないものだ。

●小さな緑の連中【Little Green Guys:異星人の典型的な描かれ方】
 私は先ほど研究デザイン部の切って貼り付けるカラーホイールについて言及した。この記事の結びとして、自然の「緑」であると我々が最初に判断した何人かの登場人物を紹介しようと思う。つまりここでの発想は、仮に我々が以下の登場人物でマジックのカードを作るとするならば、それらは緑になるだろう、というものだ。
 キング・コング【King Kong:同名のアメリカの特撮映画のキャラクター】――これは単純明快だ。本能的な欲求に駆られた巨大な類人猿だ。
 ゴジラ【Godzilla:ビキニ環礁での核実験から着想を得られた、和製キング・コング】――キング・コングと基本的な発想は同じだ。
 ターザン【Tarzan:バローズの長編小説の主人公】――猿に育てられた男。ジャングルの王者である彼は、版図を動物の友人たちと共に守る。
 スワンプ・シング【Swamp Thing:DCコミック社の出す同名の漫画作品のキャラクター】――自然の精霊であり、この自然を超越した生物が自然界の秩序を守っている。あぁそうだ、彼の身体は植物でできている。
 クマのプーさん【Winnie the Pooh:ミルンの児童小説のキャラクター】――手始めに、彼は熊だ。そして彼は胃袋を満たそうという絶え間ない願望に駆り立てられている。
 ウルヴァリン【Wolverine:Xメンシリーズ等に登場するマーベルコミックスのキャラクター】――野性的な登場人物であり、本能的に高く機能する研ぎ澄まされた五感を備える。彼はしばしば狂戦士の怒りに転じることで知られている。彼は動物の名【wolverineはクズリの意】をも持つ。
 吸血鬼狩りのバフィー【Buffy the Vampire Slayer:アメリカのホームドラマのヒロイン。邦題『バフィー~恋する十字架~』】――特別な超自然の力を吹き込まれた「選ばれし者」。バフィーは獲物を探し夜中に徘徊する狩猟者だ。彼女の動物的な側面は、監視者の評議会という非常に白な組織によって課せられた厳格な規則と相まって、絶えず彼女自身に揺さぶりをかけている。

●わが谷は緑なりき【How Green Was My Valley:アメリカの映画】
 さて、以上が緑に関して私が言うべきだったものだ。今後のテーマ週間でも他の四色のフレーバーや哲学を探求していくつもりだ。
 もし来週も参加していただければ、研究デザイン部での作業で気に入った瞬間をいくつか紹介できることと思う。
 その時まで、緑のクリーチャーの大軍で対戦相手を≪踏み荒らし≫する喜びを噛みしめているのを願いつつ。

――マーク・ローズウォーター

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