ここに訳出した記事、『The Great White Way』は、NPCさんによって既に翻訳されています。http://web.archive.org/web/20071006005244/http://members.at.infoseek.co.jp/braingeyser/03/0206a.html
原文、NPCさんの翻訳、ともに発表から長い年月が経っていますし、またカラーパイに関する文献も増えましたので、ここに新たに訳出するのもきっと了承していただけるだろう、と期待している次第です。
原文、NPCさんの翻訳、ともに発表から長い年月が経っていますし、またカラーパイに関する文献も増えましたので、ここに新たに訳出するのもきっと了承していただけるだろう、と期待している次第です。
≪白光満ちる大通り――白は「善良な」色か?≫
原題:The Great White Way ―― Is white the "good" color?
Mark Rosewater
2003年2月3日
http://archive.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/mr57
【ニューヨーク市マンハッタン地区は舞台街、ブロードウェイの愛称の一つに「The Great White Way」がある】
白の週間へようこそ! 数ヶ月前に我々は緑の週間を設けた。その時私のした約束は、同等の形式の五つの「色の」週間、これはその最初のものになるだろう、というものだった。今週はそのシリーズの第二週であり、白の週間だということだ。前回行なったのと同様に、このコラムでも色のフレーバーと哲学に関する疑問に焦点を当てていくつもりだ。
緑のコラムで明言したことだが、マジックというゲームの中心はカラーホイールに支点を置いていると私は考えている。このリチャード・ガーフィールドによる独創的な革新は、ゲームのメカニクスとフレーバーを結びつける箇所と言える。そう、機能と雰囲気は共存可能なのだ。ちょうど我々にはルールを研究するルール・グルがいたため、私はフレーバー・グルの一員として膨大な時間をかけ各色のフレーバーを詳らかにしてくることができた。今日のコラムを通じて、白色の複雑さと豊かさを幾ばくかでも詳論できればと思う。
●どなたかパイが欲しい人は?
カラーホイール上での作業を通じて、我々はマジックの五つの色それぞれに関して以下の問いを設定した。
・その色の関心事は何か? その色にとっての最終目標は何か?
・その目標に到達するために、その色はどんな手段を用いるか?
・その色の関心事は何か? その色が表象するものは何か?
・その色が軽蔑するものは何か? その色を否定的な方向に駆り立てるのは何か?
・その色が友好色を好み対抗色を嫌うのはなぜか?
・その色の最高の長所と最大の欠点は何か?
●その色の関心事は何か? その色にとっての最終目標は何か?
各色の哲学はそれ自身が欲するものに強く固定されている。各色は努めて世界を、自身が信じるようなあるべき姿へ変えようとする。それでは、白が最も価値を見出すものは何か? 調和である。白は世界が皆にとって円満に過ごせる場であってほしいと思っている。白は共同体に喜びを感じる。白は全体にとって最良のものを欲する。白は全員を注意深く見渡す。白が最上の幸せを感じるのは、誰もが自分の役割を分担しつつ他人と協調しているような、完璧で理想的な世界においてである。白の究極の目的は、平和だ。
少し脇道に逸れるが、白と「善」の概念に関して述べておこう。善と悪は人々が用いるレッテルであり、その人の価値観を推奨するか非難するかを表わすためのものだ。ある物事がその人の信仰の土台となる価値観を後押しするならば、それは【その人にとっては】善である。逆にある物事がその人の信仰の土台となる価値観を脅かすならば、それは【その人にとっては】悪である。マジックにおける各色は、自身が探究する物事に対して確然的信仰を抱いている。したがってどの色も自分自身を善と見なし、また対立する敵を悪と見なすのだ。
多くの人間は全世界共通の信念をいくつか共有している。例えば、人の命を奪うことは間違っている、といったようなものだ。白の教義の中には、このようなある種の普遍的な人間の理念を伴って列挙されるものがある。このことから白は「善」の色であると時として見なされがちだ。だが、白は本質からして善と悪のどちらでもない。マジックの他の色と同様に、白は「善」とも「悪」とも分類されうる物事を当然行なうし、またそれに対する意見が人々の間で一致しないこともありうるだろう。生命の維持はまさに白だ。君たちのほとんどが、おそらくこれを「善」として分類するはずだ。国家全体主義もまた、白そのものだ。君たちのほとんどがおそらく、こちらは「悪」として分類するはずだ。
私がこれに言及したのは、白黒の対立を善悪の対比から区別することに重要性を見出すからだ。道徳と超道徳、光と闇、清純と堕落。白黒の対立は多くの様相を呈するものだが、「善と悪の対比」はあまりにも主観的に過ぎ、適切に用いることができない。試しに白黒の対立項目の一つである、集団の利益と個人の利益を取り上げてみよう。この対立は【東側諸国による】社会主義と【西側諸国による】資本主義の対比に当て嵌まる。資本主義は黒側の主張だ。資本主義は本質からして悪だろうか? 私はそうは考えない、もっとも私に反対する人もいることは分かっているつもりだが。黒に関してはその「善」の一面も含めて、黒の週間を迎え入れた際に改めて話そうと思う。
●その目標に到達するために、その色はどんな手段を用いるか?
白は自分自身の救済だけでなく、世界全体の救済にも関心を寄せている。これは気の折れそうな使命だ。如何にして平和を創り、なおかつそれを維持すると言うのか? その回答は、構造を通じて、である。厳格な規則と戒律を設けることで、白は確実に物事を制御下に収めることができる。白はこれらの法を、二つの別個の領域に拡張する。
第一は道徳的な法だ。白は道徳が確然して存在していると考えている。正当なものがあれば、誤ったものもある。個人は道徳的に正当なことをするように義務付けられている。だが白はそれで終わらない。個人は道徳的に誤ったことを止めさせるようにも義務付けられている。白のこの領域における熱意は、宗教を駆使するまでに至った。
第二の白の「手段」は公民的な法だ。規則を制定すれば、より重要な集団の善に対して個人が不満を抱かないよう予め手配することができる。白の信念では、社会の利益は各々の個人の権利よりも優先されるべきものだ。白の創る法は、集団が保護されることを保証するのに一役買っている。白のこの領域における熱意は、政治と司法の制度を駆使するまでに至った。
こういった規則を制定し遵守しようという願望が、白のメカニクスの多くを定義している。白の防御的な天性は、色の至る所に見受けられる。《ジェラードの知恵 / Gerrad’s Wisdom》【白のソーサリー。手札の数の二倍のライフを得る】のようなライフ獲得、《練達の癒し手 / Master Healer》【白のクリーチャー。タップでダメージを4点軽減できる】のような治癒、《無視 / No Pay Heed》【白のインスタント。ターン中の発生源一つのダメージを軽減】のようなダメージ軽減、《懲罰 / Chastise》【白のインスタント。攻撃クリーチャーへの単体除去】のようなアタッカーへの除去、《護法スリヴァー / Ward Sliver》【白のクリーチャー。すべてのスリヴァーに選ばれた色のプロテクションを与える】のようなプロテクション、《崇拝 / Worship》【白のエンチャント。クリーチャーをコントロールしている限り、ダメージによってはライフが1点未満に減らなくなる】のような防御エンチャント、《啓蒙 / Demystify》【白のインスタント。1マナのエンチャント単体除去】のようなエンチャント除去、などだ。昨年は白い組織である研究デザイン部が、白の中核のフレーバーに密接に結び付いたメカニクスを発見することで、白におけるカラーパイの拡張を実現してきた。最も実り豊かな領域は、この色の「規則を作る」部分だということが判明した。こうして我々は税制と規則制定の両方のエンチャントを白へと移動させた。前者は≪プロパガンダ / Propaganda≫【青のエンチャント。対戦相手のクリーチャーが自分を攻撃する際に2マナの支払いを要求する】のような、対戦相手が代償を支払うまで妨害し続けるタイプの呪文であり、後者は≪水位の上昇 / Rising Waters≫【青のエンチャント。各プレイヤーは土地を2枚までしか起こせなくなる】のような、ルールを変更することでプレイヤーの行動の幅を制限する全体エンチャントである。この移行はオンスロートから慎重に開始されたが、今後のセットではさらに強化されていくだろう。
白のもう一つの防御的な部分は、平等を頼りにしている点だ。白は盤面を仕切り直す能力を有しており、そのため双方に等しい条件を突きつけることが可能なのだ。これが根拠となって、≪神の怒り / Wrath of God≫【白のソーサリー。全クリーチャー破壊】や≪ハルマゲドン / Armageddon≫【白のソーサリー。全土地破壊】のような呪文が白のフレーバーに宛がわれている。加えて、白には攻撃的な側面がある。白は規則を破った者を率先して処罰する。白はその組織的な技能を用いて軍隊を作り上げることができる。その個々の手駒は小さなもので、このあたりの事情から小型クリーチャーを頼っているのだが、全体としては互いに一致団結した部隊を形成している。白のクリーチャーの能力の多くは、例えば先制攻撃、≪弩弓歩兵 / Crossbow Infantry≫【白のクリーチャー。タップで戦闘クリーチャーに1点ダメージを飛ばせる】のような「レンジストライク」、ダメージ軽減、≪天使の従者 / Angelic Page≫【白のクリーチャー。タップで戦闘クリーチャーに+1/+1修正を与える】のようなクリーチャー強化、これらの能力を活用することで、クリーチャーは協同してより効率的に動けるようになる。さらに付け加えると、白は≪栄光の頌歌 / Glorious Anthem≫【白のエンチャント。自軍全体に+1/+1修正】のような、小型クリーチャーの一団を強化するには最良の呪文を擁している。
白は環境を制圧することでゲームに勝利する。つまりまず防御の構えを取り、その後に敵の脅威を止めるための対処法となる手段を使う、というわけだ。ひとたびそれらの脅威が抑え込まれれば、白の軍団は勝利を収めることができる。時として白はその積極的な攻撃を、先制防御の機動作戦に用いることもあるだろう。この戦略は「白ウイニー」として広く知られている。
●その色の関心事は何か? その色が表象するものは何か?
自然の緑と人為の青とに挟まれているため、白はまさに均衡であると言えよう。白は過去に価値を見出す重要性を理解しているだけでなく、未来に向けて計画を練る重要性をも知っている。他のどの色よりも頻繁に、白は象徴を活用する。加えて白は文明の色である。このことから白が表象する物事の一覧は、他の色よりもいささか長いものとなった。
秩序。清純。宗教。文明。構造。法。名誉。構築。道徳。政治。勇気。楽観。防御。戦略。騎士道。忠誠心。協調。軍隊。自己犠牲。誠実。光。組織。共同体。医学。
●その色が軽蔑するものは何か? その色を否定的な方向に駆り立てるのは何か?
白は自らの法に則っている。したがってこれを遵守しない者を見過ごすことは決してない。白はそのような不服従を非常に厳罰に検討する。白が言わんとする意図は「法を破った暁には償っていただく」というものだ。
これが白の積極的な側面の生じるところだ。白の考えでは、悪党だと見なせる者を阻止するに足る道徳的あるいは市民的な権利を自分は持っている。白はこの手の攻撃は先手として打たれた防御であると考える。もし白が悪党を排除できなければ、彼らは後になって白の生活のあり方を壊しに舞い戻ってくるだろう。
●その色が友好色を好み対抗色を嫌うのはなぜか?
緑には、白は共同体の重要性を理解する友好色の姿を見出す。すなわち全体の利益は個人の利益よりも重要であると考える。また青とは違って白は、文明を自然に混ぜ合わせた農業生活を営むことが可能だと言えよう。
青には、白は自制の重要性を理解する友好色の姿を見出す。白と青は両方とも計画と修養に価値を置いている。青は規則の必要性を認識しているし、また長期的に物事を考えるための忍耐強さも備えている。
赤には、白は公民的な法に敬意を払わない対抗色の姿を見出す。赤は自分の欲する物事を行なうが、そういうときはどの場合も、赤が混沌を作り出したいと思うときだ。これは白が心から欲して止まない秩序に真っ向から反抗する。もし赤が我が道を貫けば、無政府状態が地上に行き渡ることになるだろう。白が自身の平和を持とうとするなら、赤は破壊されなければならない。
黒には、白は道徳的な法に敬意を払わない対抗色の姿を見出す。黒は自分勝手にも、個人の必需品を集団の必需品より優先させる。そして、このように各人が他の何よりも一身上の必要に重きを置こうとすること、それよりも危険なものは他にないだろう。黒は危険な悪性腫瘍であり、破壊されないければならない。
●その色の最高の長所と最大の欠点は何か?
白の最高の長所は、法を作りそれを強いることができるという能力だ。もし白が自分の規則を君に宛がうことに成功すれば、対戦相手は取り入る隙を見逃すだろう。この構造の欠点は、非弾力性にある。白は迅速に改良して周囲に適応するという能力を備えていない、というのも、白はまさに自分のやり方を広めようとしているからだ。加えて、白はあまりにも集団に焦点を当てているため、しばしば個人の視点を見失いがちだ。
●白い騎士団【White Knights:アメリカの映画。邦題「ホワイトナイツ/白夜」】
研究デザイン部がカラーホイールに関して討論する際に、我々は雑誌から絵を切り抜いてそれらを壁に設けられた巨大なカラーホイールに貼り付け、各色についてどのように見ているかを互いに説明しあった。この項目が最も物議を醸すと緑の週ではっきり示されたので、当然、私は今回もこれを書かざるを得なかった。以下に挙げるのは我々が白の登場人物だと見なしたものだ。
スーパーマン【Superman:DCコミック社の漫画のヒーロー】――漫画研究会では「ボーイスカウト」として知られる彼は、常に、常に規則に従って行動している。彼は非常に強い道徳的な性根を携えている。加えて、自分の主な役割の一つが他者を守ることだと彼は感じている。これらの行動は全て、非常に白いと言える。
アーサー王【King Arthur:6世紀頃のイギリスに実在した君主。後世の創作に脚色されて(?)よく出てくる】――アーサーの主要な行動計画は、臣民を助け保護するだった。彼もまた強靭な道徳的慣例を持っており、それが彼の行動の指針となっていた。そして彼は構造を最大限に利用することで、こういった保護を打ち立て維持した。
マージ・シンプソン【Marge Simpron:アメリカのアニメ「ザ・シンプソンズ(The Simpsons)」の登場人物。シンプソン一家の母親】――我々の行なった中で楽しかったことの一つは、シンプソン一家の面々をどこに配置するか決めようとした、というものだ。議論を数回重ねた末、マージは最終的に白に置くということでまとまった。彼女は一家の道徳の中心だ。彼女とリサ【一家の長女】だけが良心に従っているように思われる。彼女は自分よりも良心を重要視し、家族に構造を提供しているのだ。そして彼女は自己犠牲になるほどまでに保護的でもある。
艦長ジャン=リュック・ピカード【Captain Jean-Luc Picard:ドラマ「スタートレック」シリーズの登場人物。艦を指揮する大佐】――惑星連邦は非常に白い組織だ。連邦は道徳的核心を有しているし、自身の規則を崇敬して止まない。ピカードは連邦へ奉じる優秀な兵士だ。彼もまた強い道徳的羅針盤を持ち、その眼前に開かれた規則によって部下を指揮している。ピカードは構造を持っている。そうであるからこそ彼の娯楽は、他の文明の構造を研究するという考古学なのだ。
「ウォッチメン」のヴィラン【DCコミック社の漫画「Watchmen」に登場する悪役を一括してヴィランと呼ぶ】――ネタバレ注意――もし「ウォッチメン」を読んでいないなら、この段落を読むのは止めるべきだ、そしてその替わりに、グラフィックノベルのコピーを買いに出かけるべきだ。「ウォッチメン」は漫画作品としては最高傑作だ――私見だが、考えを変えるつもりはない。これは非常に良い作品だ。よろしい、では、今ここを読み進めている君たちは皆、「ウォッチメン」を読了したということで、相違ない、と。未読の者にとってはここが最後の機会だ、つまり、ネタバレで全てを台無しにされるのを防ぐための。さて――オジマンディアスこそが、白のヴィランの典型的な一例だと言える。彼の動機は非常に純粋なものだ。自分の行動が世界を全体としては救うことになるはずだ、と彼は信じていた。そして彼は少なくとも、全体のより大きな利益のためならば、いくらかは犠牲にせざるを得ないと考えていた。これが証明しているのは、白の登場人物が必ずしも善人であるとは限らない、ということだ。思い出していただきたい、私はマジックのカラーホイールについて話をしているのだが、【だからマジックに関連付けて話を戻すと、】白のヴィランが黒のヴィランと区別される分水嶺は、次の事情にある。つまり、黒のヴィランは自分が【社会通念に反するという意味で】邪悪なことをしているという自覚を持っているのに対して、白のヴィランは自分が【社会全体にとって正しいはずだという意味で】善良なことをしていると信じている、という事情だ。
●白い影【原文では「A Paler Shade of White」。イギリスのロックバンド、プロコム・ハルムのデビュー曲「A Whiter Shade of Pale(邦題:青い影)」をもじったものと思われる】
さて、以上で白の週は終わりだ。今後の「色の週間」で私は青、黒、赤を探求していくつもりだ。
私は先週課せられた仕事をこなさなければならないが、それが済んだ頃に、また来週お会いできれば幸いだ。
その時まで、自分の規則を対戦相手に押し付ける悦びを噛みしめているのを願いつつ。
――マーク・ローズウォーター
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