白:神条紫杏――『パワポケ』シリーズ
青:一ノ瀬教授――『ネオファウスト』
黒:カラスミ――『コロッケ!』
赤:ラズミーヒン――『罪と罰』
緑:はらぺこあおむし――同名の絵本
茶:時計型麻酔銃――『名探偵コナン』

≪わが友なる敵――色対策の規則≫
原題:Enemy Mine ―― The rules of hosing
Mark Rosewater
2002年2月18日
http://archive.wizards.com/Magic/magazine/article.aspx?x=mtgcom/daily/mr8
【映画『第5惑星』の原題・原作は『Enemy Mine / わが友なる敵』】

 色対策の週間へようこそ。この用語に馴染みの無い人のために説明しておくと「色対策【Color Hoser】」カードは、特定の色を使用しているプレイヤーを酷い目に遭わせるものだ。色対策の具体例としては≪沸騰 / Boil≫【全ての島を破壊する赤のインスタント】や≪冬眠 / Hibernation≫【全ての緑のパーマネントをバウンスさせる青のインスタント】が挙げられるだろう。「メイキング・マジック」は設計に関するコラムなので、色対策がいかに作られるかを述べることはおそらく様になるのではないか、と思う。自明の理やもしれぬ。
 色対策カードの設計を述べるに当たって、私は読者諸兄に嘆かわしい小さな秘密を打ち明かさなければならないと思われる。設計には規則がある。非常に多くの規則があり、絶えず発展している。それらはマジックの規則と非常に似通っているが、より多くの条項がある点、そして今まで一度も文章に書き下ろすように計らわれたことがない点、これらの点で異なっている。そこで、いかにして私は設計の規則を知りえたかが問題になってこよう。正直に言うと、真っ先に認めなければならないことだが、私とてこの規則すべてを知っているわけではない。だが私が現場の仕事から学んできた知識は、この六年間をかけてまさに血肉になっていると思う。
 私はことあるごとに、設計者が規則を破るのがいかに好きかということに言及してきた。つまり規則が過剰にあるため、我々は次のことを身に染みて理解しているのだ。すなわち、研究デザイン室の中を少しの間走り回り、取り乱して笑って「今日はおさらばだ、我がちっぽけな規則よ! 今日はおさらばだ……!」と肺の中から金切り声を上げること、それが毎回どんなに楽しいかということを。
 しかし、規則は理解されるまでは破られるべきではない。そこで今日は、発展規則について書くには今はいささか忙しいので、色対策カードの設計の基本規則を見ることから始めさせていただきたい。それぞれの規則を説明するに際して、その例外事項についても補足するつもりだ。おまけとして、我々がそれらの規則を遵守しなかった場合に研究デザイン部がどのような失敗をやらかしたか、その実例をもいくつか挙げていこう。
 だがその前に、なぜ色対策カードが存在するかについて掻い摘んで説明させていただきたい。

●色対策カードが存在する理由
 マジックのメカニクスはゲームにおいてある種の強制力を作り出す。例えば色マナの配分は非常に重要で、プレイヤーは単色のデッキを使うことで【色事故を起こさないという】見返りを受けることができる。しかし研究デザイン部は、プレイヤーに複数の色を使うよう奨励することで、マジックをより良いゲームにできる、そのように考えている。では我々はいかにしてそれを成し遂げようとしているのかと言うと、実際それは多岐に渡って行なわれている。色のフレーバーを厳格に分け隔て、各色に弱点を設けること。色同士に相乗効果を作ること。金色カードが最適な例だが、使うのに二色以上を必要とするカードを印刷すること【原文発表の02年当時、多色カードとしての分割カードや混成カードはなかった】。すべて一覧にすればかなり長いものになるだろう。
 単色使いを懲らしめる最も簡単な方法の一つが、色対策カードを作ることだ。マジックにおいてはいかなる戦略に対しても対抗策が設けられているべきであり、これは単色デッキに対しても例外なく言えることだ。さらに色対策カードは、メタゲームの均衡を維持する一助になるという利点を持っている。例えば、もし黒があまりにも強力になったならば、対黒カードがそれを食い止めようとするというわけだ。
 そうは言っても、これを規則にするとどうなるだろうか。

●規則1:色対策カードは対抗色を懲罰するべきだ
 これは確然的に明らかなものだが、やはり最も基本の規則である。各色は二つの友好色と二つの対抗色を持っており、友好色を手助けし対抗色を痛めつける。単純なことだ。
 規則1はしばしば破られる。第一にマジックは、色が自分自身を疎外するというフレーバーを持っている。例えば、黒のクリーチャー破壊呪文の多くは、黒いクリーチャーに対しては効かないようになっている。青は生息条件・島持ちのクリーチャーからの攻撃に晒されることを気にかけなければならない。森渡りや山渡りは、緑や赤めいめいの色にありふれた能力だ。
 第二に、防御的な色として白は、白自身を含む全ての色に対して対策カードを有する傾向にある。代表例としては≪防御円 / Circle of Protection≫【白のエンチャント。各色に対応したダメージ軽減能力をもつ】が挙げられよう。
 第三に研究デザイン部は、時として友好色を攻撃するようなカードを作ることがある。直近のカードで言うならば、トーメントの≪珊瑚の網 / Coral Net≫【青のオーラ。白か緑のクリーチャー専用だが、相手に維持費として手札一枚を要求させる】と≪抵抗の誇示 / Flash of Defiance≫【赤のソーサリー。そのターン白や緑のクリーチャーではブロックできない】ということになるだろう。これら二枚のカードは、セットの黒中心的な主題を強調するために、黒の対抗色である白と緑を攻撃しているのだ。トーメント以前の有名な例は、アポカリプスの一連のカード群が挙げられよう。アポカリプスでは普段の友好色が対抗色になり、普段の対抗色が友好色になり、つまり色の関係が逆さまになっていた。

●規則2:色対策カードは各色のフレーバーに適合しているべきだ
 アルファ版でリチャード・ガーフィールドが行なった意欲的な試みの中に、色は敵の能力を利用し妨害できる、という発想がある。その代表例が≪青霊破 / Blue Elemental Blast≫と≪赤霊破 / Red Elemental Blast≫だ。どちらの波動【Blast】も相手側の色の呪文を打ち消すことや、既に場に出ている相手側の色のパーマネントを破壊することができる。打ち消しは青のもので、破壊は赤寄りのものだ【確かに相手の能力を利用し、相手を妨害している】。この発想の問題なのは、色のフレーバーを水で薄めている点にある。例えば赤は、白のエンチャントに対しては為す術を持たないが、青のエンチャントに対しては簡明な回答を持っている、ということになってしまう。
 現代の設計では色対策カードは、その色の主題に生得的に反するようなことが、つまり研究デザイン部での用語で言うと他色からの「抜き取り【bleed】」が、もはやできなくなっている。色が対抗色を処罰する際には、その色のフレーバーに適うような方法で実施されなければならない。
 過去これに関して研究デザイン部が台無しを引き起こした典型的な事例は、アイスエイジに収録された≪Anarchy≫【無秩序。赤のソーサリー。すべての白のパーマネントを破壊する】だ。確かに赤は白を懲らしめるのが当然だが、本来それは赤の関与するものから完璧にかけ離れた手法であってはいけないのだ。赤はクリーチャーを焼き、土地を削り、アーティファクトを砕く、これらのことは可能だが、しかしエンチャントは赤にとって苦悩を意味するものだ。エンチャント【enchantment、つまり魅力】は実体を持たない。赤がエンチャントを手に取れないのも、それらは赤がただ吹き飛ばせるようなものでないからだ。≪Anarchy≫は赤からこの素敵な性質を奪い取り、窓の外へと放り出してしまっている。

●規則3:色対策カードの有効性は逓増するべきだ
 この規則の要点は、対戦相手がその対策されるべき色をより多く使っているほど、色対策カードはより大きな効果をもたらすべきだ、というものだ。例えば≪非業の死 / Perish≫【黒のソーサリー。すべての緑のクリーチャーを破壊する】が、緑を含む二色デッキよりも緑単色のデッキに対してよく効くといった具合にだ。また以下を指摘しておくのは意義あることと思われる。すなわち――≪殺戮 / Slay≫【黒のインスタント。白緑クリーチャー1体を破壊し、カードを1枚引ける呪文】のような単発の色対策カードであっても、やはりこの基準に適合している、というのも、対戦相手が緑を多く使うにつれて、実際に破壊するクリーチャーの頭数は変わらなくとも破壊できるクリーチャーの選択肢は増えるのだから、対策カードの有用性は増していると言えるからである――このことだ。
 この規則から必然的に導き出される結論だが、一掃型の色対策カードもまた、該当する色を使っているプレイヤーが呪文を唱えにくくするようなものでなければならない。≪野火 / Flashfire≫【赤のソーサリー。全ての平地を破壊する】を例に挙げると、このカードの危険性は、白の入ってないデッキを使うプレイヤーよりも赤白デッキを使うプレイヤーにとっての方が遥かに大きい。

●規則4:色対策カードは対抗色の弱みに付け込むべきだ
 最も良くできた色対策カードは、対抗色の弱点を探し当てそこを穿つようなものだ。例えば≪赤の防御円 / Circle of Protection: Red≫は赤にとって酷い頭痛の種だが、それというのも赤はエンチャントへの明確な対処法を持っていないからだ。≪たい肥 / Compost≫【緑のエンチャント。黒のカードが対戦相手の墓地に置かれるたびにカードを1枚引ける】が黒を苦しめるのも、破壊や捨て札を通じて墓地にカードを置くことこそが黒の十八番だからだ。
 研究デザイン部の色対策カードに関する大失態の多くは、この規則4を我々が無視したときに起きている。その最たる例はおそらく、第6版に「対黒カード」として収録された緑の≪イボイノシシ / Warthog≫【緑の3マナダブルシンボル3/2沼渡り】だろう。第6版で黒は対緑カードとして何を得ていたかと言うと、≪非業の死≫である。そう、すべての緑のクリーチャーを破壊する≪非業の死≫だ。≪非業の死≫対≪イボイノシシ≫、これはさながらヘビー級プロボクサーのマイク・タイソンと『アーノルド坊やは人気者』の子役ゲイリー・コールマンを闘わせるようなものだ。≪イボイノシシ≫は規則4の要点を引き立てている。黒はクリーチャー殺しの色だ。黒へのプロテクションや対象に取られない能力を持たないものを別にすると、緑のクリーチャーでは黒にいかなる問題を生じさせることもできないのだ。
 余談ながら、――余談の余談だが、私は余談が大好きなので、私のコラムを読む際には非常に多くの余談が出てくることを覚悟しておいていただきたい――研究デザイン部の過去の愚行をからかい尽くすのは楽しいことだが、どのように第6版の≪イボイノシシ≫の収録が最終的に決定されたのか、私はそれを説明する必要があると思う。第6版のチームが収録カード選びの作業に着いた際、彼らはアンコモンに一通りの色対策カードが必要だと認識していた。彼らが自由に使えたカードはウェザーライト以前のもので、テンペストブロックからは少量のコモンとアンコモンが再録されたに過ぎなかった。以下に挙げるのは、アンコモンで再録可能なもので、加えてそのどれもが黒対策としては効果覿面だったカードだ。
 アルファ版より≪生の躍動 / Lifeforce≫【緑のエンチャント。2マナで黒の呪文を打ち消す使い回し可能な起動型能力を持つ】――数週間前の連載記事「Ask Wizards」で説明されたように、緑は打ち消しの色ではない。
 レジェンドより≪疾風のデルヴィッシュ / Whirling Dervish≫【緑のクリーチャー。プロテクション黒とスリス能力を持つ】――プロテクションは基本セットには使われない。
 フォールン・エンパイアより≪Thelon’s Chant≫【セロンの詠唱。緑のエンチャント。アップキープに緑1マナ支払わなければ生け贄に捧げられる。対戦相手が沼を置くたびに、3点ダメージか-1/-1カウンターを強要させる】――第6版のレアではいくつか例外が設けられたが、基本セットはアップキープに触れるカードやカウンターを用いるカードを扱わない。
 アイスエイジより≪Freyalise’s Charm≫【フレイアリーズの魔除け。緑のエンチャント。対戦相手の黒の呪文に対応して2マナ支払えばカードを1枚引ける。手札に戻すこともできる】――カードを引くのは緑らしからぬことであり、またこれは基本セットに入れるにはいささか複雑なものだ。
 ホームランドより≪Spectral Bears≫【幽体の熊。2マナ3/3。黒のパーマネントを持たない対戦相手を攻撃すると、次のターンはアンタップしない】――基本セットは非レアの開始フェイズ【原文:upkeep】を参照するカードを扱わない。
 ミラージュより≪腐敗 / Decomposition≫【緑のオーラ。黒のクリーチャー専用。累加アップキープコストとして1点のライフ、さらに墓地に落ちたときに2点のライフを課す】――累加アップキープは基本セットでは使わない。
 ミラージュより≪生命の根 / Roots of Life≫【緑のエンチャント。場に出るに際し島か沼を選び、対戦相手がそのタイプの土地をタップするたびに1点のライフを得る】――このカードは黒と同時に青をも対策してしまう。
 ヴィジョンズより≪エレファント・グラス / Elephant Grass≫【緑のエンチャント。累加アップキープ。黒のクリーチャーに攻撃制限、それ以外のクリーチャーに通行税を課す】――累加アップキープは基本セットでは使わない。
 テンペストより≪刈り取り / Reap≫【緑のインスタント。対戦相手の黒のパーマネントの数だけ、墓地からカードを手札へ回収できる】――基本セットは複数の対象を取るカードを避けている。このカードもまた、基本セットとしてはいささか複雑だと結論付けられた。
 つまりアンコモンの緑の黒対策カードの中に、使えそうなものは一枚もなかったのだ。そこでチームはコモンの方へと目を向けた。一つだけ使えるものがあり、それがビジョンズの≪イボイノシシ≫だったというわけだ。こうして、なぜ≪イボイノシシ≫が選ばれたのかと言えば、他に選ばれたカードで妥当なものが一つもなかったからだというのが回答になる。

●規則5:色対策カードが自動的に勝利をもたらすべきではない
 色対策カードは優良なものであるべきだ。すなわち「対戦相手がこれこれの色を使用しているならば、あなたはゲームに勝利する」と書かれていてはならないのだ。よくできた色対策カードは特定の色を使うプレイヤーに刺さるが、その使われるプレイヤーにも機能不全の中で立ち回れるくらいの余地は残されているべきだ。研究デザイン部の色対策カードに関する過去の失敗の中には、単に優秀に作りすぎたというものがある。例えば≪非業の死≫はすべての緑のクリーチャーを破壊するという効果に対して3マナは低すぎるコストだし、≪Dystopia≫【暗黒郷。黒のエンチャント。累加アップキープを持つが、対戦相手に白や緑のパーマネントの生け贄を強いる】は黒が普段ならば破壊するのに一手間も二手間もかかるエンチャントやプロテクション黒を持つクリーチャーにさえ手出しできる呪文だ。

●最後に一言
 ここまで見てきたように、多くの思惑が色対策カードの製作に携わっている。そこで次に君がゲームで劣勢に立たされたときは、数秒の時間をかけて、君の頭を吹き飛ばそうとしてくるカードの美学や巧みさをまじまじと見て感じ取っていただきたい。
 来週は、研究デザイン部がどのカードをレアに決定するか、その過程を述べるため火事場へ舞い戻ろうと思う。
 その時まで、君のマナ・カーブが緩やかであることを願いつつ。
 それではまた。

――マーク・ローズウォーター

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