今回訳出した記事にはre-giantさんによる比較的新しい翻訳が既にあります。(http://regiant.diarynote.jp/201405051312055720/)
私が原文を読む際には非常に参考になり、理解の助けになりました。今回は「色の哲学やカラーパイの記事のひとつ」として訳出し直しました。変更した箇所の中には、文章全体の理解には支障の無い程度の、用語選択のものも含まれます。また私の読みがより正確という保証もありません。是非併せて読むことでマローの言わんとするところを汲み取っていただければ幸いです。
私が原文を読む際には非常に参考になり、理解の助けになりました。今回は「色の哲学やカラーパイの記事のひとつ」として訳出し直しました。変更した箇所の中には、文章全体の理解には支障の無い程度の、用語選択のものも含まれます。また私の読みがより正確という保証もありません。是非併せて読むことでマローの言わんとするところを汲み取っていただければ幸いです。
≪アーティファクトだけを話してください、奥さん――アーティファクトの週間へようこそ!≫
原題:Just the Artifacts, Ma’ am ―― Welcome to Artifact Week!
Mark Rosewater
2005年2月28日
http://archive.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/mr165
【ドラマ『ドラグネット』シリーズのフライデー警部の台詞に「事実だけを話してください、奥さん / Just the facts ma’am」というものがある】
アーティファクトの週間へようこそ! 今週はmagicthegathering.comのコンテンツ管理人であるスコット・ジョーンズによって、この二年間に渡って連載された大きな色の週間の締め括りとして思い描かれたものだ。それぞれの色の週間で私は、『緑でいるのは楽じゃない』『白光満ちる大通り』『忠実なる青』『腹黒さの中に』『赤裸々な激情』といったように、色の哲学に関する記事を執筆してきた。したがって私がアーティファクトの哲学についての記事を書くことは、ただただ順当なことのように思われる。だが些細な問題が一つだけある。それは、アーティファクトは哲学を持っていない、というものだ。
●無に釣り合う何か
帝国は栄えては衰えるものだが、古代ローマ帝国は特に印象深いものだ。彼らが有していたのは車道、水路、建築様式、気の利いた暦、美味いサラダ、活き活きした娯楽、水道管――もっとも、彼らは鉛を使っていたので、水道管には改良の余地があるのだが――このように彼らは種々様々の近代的な利器を持っていた。そんなローマ帝国が持っていなかったものをご存知だろうか。ゼロの概念だ。既に気付いていた方がいるかもしれないが、ローマ数字には無を表現する術が用意されていない。それというのも彼らには発見できなかったからだ。なぜ私が古代史へと話の筋を逸らしているのかと言うと、二つの理由がある。第一は、私は執着心と強迫観念に囚われた執筆様式を取っていて、そのため行き当たりばったりで断片的な雑学へ向かって本題から外れるよう強いられているからだ。だがより肝腎なのは第二の方で、この言及によって無の価値を把握することがいかに困難であるか、それが要点として強調されるからだ。
だがリチャード・ガーフィールドは数学教授だったため、ゼロの概念に非常に精通していた。ついでながら私も同様に知っていた、それは教育アニメ『スクールハウス・ロック / Schoolhouse Rock!』の「My Hero Zero」の回のおかげではあるが。閑話休題、このためリチャードは最初にカラーパイを作った際、そのパイの中に当て嵌まらない何物かを作ることの意義を理解していた。その何物かは、カラーパイの反定立になるもので、いかなる色も宛がわれない仕掛けだ。留意すべきは、この最初の段階ではそれはアーティファクトではなかった、ということだ。それは無色マナだった。
なぜ無であることがそれほど重要だったのかと言うと、リチャードはコストの構成要素を全て色に連携させなければならないとは思っていなかったからだ。もし5マナの赤の呪文を唱えるためには5点の赤マナが必要だとされれば、プレイヤーは単色デッキを使うのを強いられることになるだろう。こういったわけで、リチャードは以下のことを明確に認識していた。つまり、プレイヤーを色の制約をかけさせないためのコストが部分として必要である、と。そこから不特定マナコストへと至るのは一足飛びだった。コストの一部を無色にできると言うのなら、全部をそうしたようなカードがあっても良いだろう。
だがこれらの無色の呪文は何を為すものだろうか。幸いにもかなり初期の段階から、リチャードは魔法の品目を含ませたいと思っていた。何と言っても『ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ』やファンタジーの卓上演技遊戯【ロール・プレイング・ゲーム】で遊んだことのある者なら、魔法の品目の価値を知っているものだ。どの魔法使いも魔力を帯びた杖や兜や先住民の笛を買いに行くことができる。このことに色が重要であるようには考えられず、無色の呪文としては完璧に誂え向きだった。
それゆえ、アーティファクトは色ではなく、色の不在である。アーティファクトは特定の哲学を表象するのではなく、哲学の欠如を表象している。アーティファクトに専門特化した魔法使いは、処世の秘訣を見つけ出そうとしているのではなく、むしろ何に対しても執着しないようにしているのだ。
●まさに好みのタイプ
とはいえ、アーティファクトが哲学を持っていないからと言って、それがフレーバーをも持っていないということにはならない。その種と仕掛けは、カードのどこを見るかを知る必要がある、というものだ。アーティファクトはマナコストではなくカードタイプによって分類されなければならない。つまり、白、青、黒、赤、緑、そしてアーティファクト、ではない。クリーチャー、エンチャント、インスタント、土地、ソーサリー、そしてアーティファクト、だ。ちなみにかつてのインタラプトは系図から消し去られた【また、部族やプレインズウォーカーは当時まだ出ていない】。そしてこれらカードタイプのそれぞれは多分にフレーバーを有しているのだ。
アーティファクト――アーティファクトから始めよう。それには二つの理由がある。第一は、このコラムそして今週全体の主題だからだ。第二は、アルファベット順だと最初に位置するカードタイプだからだ。なんとまあご都合なことで。さて、アーティファクトは物体だ。物理的で、実体的で、手に持つことのできる物体だ。失礼、言い直そう。物理的で、実体的で、手に持つことのできる魔法の物体だ。この「魔法の」という一言は実は非常に重要だ。アーティファクトは単なる品目ではなく、魔法の特性を染められた品目なのだ。
神河救済には、椅子を表象するアーティファクトは収録されない予定だ。玉座のそれなら、骨か何かで作られたものなら、ありうるかもしれないが。あぁ、明日には噂が飛び交っているのが目に浮かぶ――≪骨の玉座 / Throne of Bone≫【ラッキーチャームという、非常に些細なライフ回復用アーティファクトのサイクルの一つ】の再録をマローが言っているらしい、という噂だ。この再録のくだりが冗談ではないとは、誰にも言えないことではある。閑話休題、アーティファクトは格別に希少な魔法の品目だ。このため、例えば、コモンのアーティファクトは滅多に見られないものだ。金属で作られた世界は例外であるが、アーティファクトは定義からしてコモン【ありふれたもの】ではない。そこで、私はここ「メイキング・マジック」の記事で難しい質問に回答しているのだが、アーティファクトでないものは何かという疑問が生じてこよう。それ以外のもの全てだ。何をもってしてそれ以外のもの全てと見なすのか。その答えは他の五つのカードタイプが伝えるものだ。
クリーチャー――クリーチャーは生きた、呼吸をする、感覚を持った有機体だ。もっとも、これは厳密には正しくない。ゾンビは実際に生きてはいないし、精霊が本当に呼吸をしているかどうか分からないし、突き詰めて考えると植物はそれほどまで感覚を持っているわけではない。とはいえ、彼らは有機体ではある。生きているもの、少なくともかつて生きていたもの、あるいはあたかも生きているかのように行動するものだ。クリーチャーでないものは、上記の生きた、呼吸をする、感覚を持つ、思考するといった要素をどれも持たない、そのような物理的物体であると言えよう。以上を根拠として、我々は意図的に無生物の物体をクリーチャーから除外してきた。例えば≪石の壁 / Wall of Stone≫【3マナ0/8の赤の壁】は創造的に話すようなクリーチャーではなく、煉瓦と漆喰の塊だ。煉瓦と漆喰が恐怖に駆られて急死するのを見たことがあるだろうか。これは、マジックのカードに石で出来た壁を設ける余地がない、と言っているのではない。それはクリーチャーであるべきではない、というだけだ。
エンチャント――ここから話がいささか曖昧になっていく。エンチャントとは、長続きする魔法の効果だ。それらは実体を持ちうるが、そうである場合もやはり魔法の力で作られた物という構想の下にある。例えばザ・ダークの、哀れな工匠長バールが閉じ込められた実体を持つ檻≪バールの檻 / Barl’s Cage≫【4マナのアーティファクト。3マナごとにクリーチャーのアンタップを阻害する】は、当然何らかの魔法の特性を宛がわれているだろうが、アーティファクトであるべきだろう。一方で神河物語の≪手の檻 / Cage of Hands≫【白のオーラ。クリーチャーに戦闘への参加を禁じる】は比喩としての檻であり、手の姿形を取って哀れな対象を絡め取る魔法の力だ。
エンチャントが物理的な特性を伴って現れうるからと言って、それらが常にそうあるべきだということにはならない。多くのエンチャントは魔法そのものよりもむしろ魔法の結果を表している。継続性の要素が重要なのも、エンチャントをインスタントやソーサリーと差別化させるためだ。
インスタントとソーサリー――手始めにカードの構想という観点から見ると、インスタントの絵とソーサリーの絵との間に違いはない。両方とも魔法の呪文が解決した結果を表現しているが、そもそも単一の静止した画像では、インスタントとソーサリーの時間上の契機の差異を伝達できない。インスタントとソーサリーとエンチャント、これらの描画方法で最も異なる点は、インスタントとソーサリーは詠唱中の様子を描かれることが多く、一方でエンチャントは効力を発揮した後の状況を描かれることが多い、というものだ。
土地――土地は、場所だ。物理的な場所だ。土地は何であるかよりも何処であるかを喚起させるべきだ。つまり土地は、建物や石の壁といった人工の建造物を表現する、そのようなカードタイプとしての役割を担うことになったのだ。土地とアーティファクトそれぞれに見られる人工の品目で最大の相違点は、以下のようなものになる。つまり、アーティファクトは本質が魔法であり、概して持ち運びが可能であるが、一方で土地に描かれる建物はそれ自体として魔法である必要はない、土地カードの着想はマナの豊富な場所に基づいているからだ。
●マークによる注釈
何百通ものお便りが来る前に強調させていただきたいのだが、私が説明しているのは現在我々がカードタイプをいかに定義しているかについてだ。この定義は常にそうだったわけではない。確かに過去には、≪城壁 / Castle≫【白のエンチャント。アンタップ状態のクリーチャーに+0/+2の修正。7EDまで収録】という名前のエンチャントや≪水銀の短剣 / Quicksilver Dagger≫【青赤のオーラ。タップで1点ダメージと1ドローを同時に引き起こせる。APC収録】という名前のエンチャントがある。土地の構想を伴ったアーティファクトがあれば【モックスなどの0マナのマナ・アーティファクト】、アーティファクトの構想を伴った土地もある【黎明期に多く存在した、マナを生み出す能力を持たない特殊地形】。また、当然ながら≪石の壁≫もある。我々は時にはこれらの指針を破るかもしれないが、もしそうするとすれば、我々に規則を破る目的があるからであって、我々が規則を理解していないからではないはずだ。
●命のアーティファクト
だがアーティファクトには、カードに印刷された構想以上のものが含まれている。事実、私がテイラー・ビールマン、マイク・エリオット、ブライアン・タインズマンらと共にミラディンのデザイン・チームを立ち上げた際、チームに私が提起した最初の質問は、アーティファクトの特性とは何か、というものだった。以下にチームが結論付けた答えを挙げていこう。
特性1:アーティファクトは不特定マナコストを持つ
何事につけても確然的に自明なことから始めるのが良い、というのもそれらがどれほど時に非自明たりうるか興味深いだからだ。アーティファクトが必ず不特定マナコストを持っているからと言って、規則がそうするように定めているわけではいない。例えば、我々は赤マナをコストにするようなアーティファクトを作ることが可能だ【有色アーティファクトは後のアラーラの断片ブロックで登場する】。このアーティファクトは、カードの色はマナコストの色マナによっても定義されるので、赤いカードということになるのだが、同時にアーティファクトでもあることは疎外されていない。ミラディン開発陣はアーティファクトの不特定マナコストを、他と差別化するのに必要な要素として強く感じていた。その理由のひとつはフレーバーにあるが、より肝腎なものは次の第二の特性にある。
特性2:どの魔道士も全てのアーティファクトを取り扱える
私はよく冗談交じりにアーティファクトを「万人のカードタイプ / the people’s card type」と呼ぶ。私とチームメンバーが感じていることだが、このアーティファクトの普遍的な性質こそが、それらを最も特徴付ける要素の一つだ。献血で比喩するならば、アーティファクトは万能ドナーだ。気に入ったアーティファクトを見つけたプレイヤーは、自分のデッキにそれを入れることができる。もっとも、そのアーティファクトがデッキの他のカードと相互作用をもたらすと言っているのではなく、マナコストが邪魔にならないと言っているのだ。
この特性こそ我々が、ミラディンの破片サイクルのように、切り替え可能な起動型能力コストをデザインする契機になったものだ。この発想は、ある種のアーティファクトは特定の色とより相性が良く、その色のプレイヤーのデッキではより効果が高まる、というものだ。そしてシールド戦などのように必要とあれば、いささかパワーの水準は低くなるものの、【たとえ色の合わなくても】どんなプレイヤーでもそのアーティファクトを使うことができる。我々は≪Gauntlet of Might≫【力の篭手。赤のクリーチャーを全体強化し、山の生むマナを倍加させるアーティファクト】や≪コーマスの鐘 / Kormus Bell≫【全ての沼を1/1のクリーチャーにさせるアーティファクト】のような、特定の一色に有用性を傾注させたアーティファクトを作っても良い、と思っている。これらは他の色でも利用可能なある種の汎用性を持っているからだ。例えば、沼が大量に並ぶデッキに対峙したときのために≪コーマスの鐘≫をサイドボードに潜ませるプレイヤーがいたことは特筆に値するだろう。
この特性が挙がったのを見て、特にミラディンの二枚のカードについて尋ねようと思った人が中にはいるだろう。つまり≪変幻の杖 / Proteus Staff≫【起動に青マナが必要なアーティファクト。クリーチャーを変身させられる】と≪レオニンの陽準器 / Leonin Sun Standard≫【起動に白マナが必要なアーティファクト。自軍全体強化】のことだ。ミラディンブロックには、プレイヤーが特定の色マナを利用できる場合に追加の価値をもたらすアーティファクトはいくつもあるが、プレイヤーが特定の色マナを利用できる場合に限って使えるアーティファクトは、先の二枚だけである。これらのカードは研究デザイン部に多大な議論を引き起こし、白熱した討論は幾度となく交わされた。個人的には私はこれらが間違っていると考えている。というのも、特定の色マナを排さなければアーティファクトは使用に適さなくなる、この点に私は限界線を引いているからだ。だが私の声は大勢の中の一つの意見であり、私のそれは通らなかった。私はこの判断は紙一重のものだと言おう。≪コーマスの鐘≫と≪変幻の杖≫の間には、二つを隔てる極細の一線がある。我々は【アーティファクトの領分の限界である】一線をどこかに引かなければならない、と私は考えているが、私が個人的に選んだ一線がこの二枚の間のそれだったということだ。とはいえ研究デザイン部での仕事は一人の人間の観点ではなく、集団として携わる努力の成果だ。よって私がこれらのカードを間違っていると言う際、私が真に言わんとしているのは、これらは私個人のアーティファクトに対する観方と少しばかり一致していない、ということだ。私ならば異なる選択をしたであろうが、≪変幻の杖≫と≪レオニンの陽準器≫が作られた過程に対して私は敬意を払っている。つまり、一色にしか扱えないアーティファクトはデザインの領域として余地のあるものであり、マジックは時折そこに到達しうる、ということだ。
特性3:アーティファクトはアーティファクト破壊に弱い
この特性も極めて自明なため、しばしば見落とされる。各パーマネントタイプは、それに対応した除去呪文を宛がわれている。これらの除去呪文のみが特定のカードタイプを追い払うことができ、そしてこの事実がゲームの言外の意味を大いに持たせている。例えば、大抵の環境でアーティファクト、エンチャントそして土地はクリーチャーに比べると長く持ち堪えるものだ。なぜならどのデッキもクリーチャーには対策を備えているが、必ずしもアーティファクトやエンチャントや土地にも対処できるよう準備しているわけではないからだ。実際、メタゲームが特定のカードタイプを排除するような場合、それを採用すれば対戦相手に非常な難題を突きつけることができる。
この特性は我々がアーティファクト・土地を作るという決定を下す際に、非常に重要な意義を担っていた。その時の我々は次のように考えていた。すなわちアーティファクト破壊の濃さを強くすることで、アーティファクトとしても勘定できる土地のアドバンテージを割り引けるはずだ、と。我々は間違っていたのだが、ともあれ以上が当時の判断過程だ。
特性4:アーティファクトのフレーバーは、非常に明確な着想に基づいている
この点に関しては、前項で既に説明した。
特性5:アーティファクトはその汎用性ゆえ最も包括的な能力を宛がわれる
この箇所に至ってカラーホイールが議論に戻ってくる。アーティファクトは不特定マナコストを持つため、カラーホイールを転覆させることなく作るのが非常に困難な存在だ。研究デザイン部で我々が好んで取る解釈は次のようなものだ。すなわち、何らかの能力をアーティファクトに与えることは、その能力を最も不得手とする色に与えるのと同じである、というものだ。例えばエンチャント破壊を見よう。黒と赤はエンチャント破壊が酷く苦手だ。もしエンチャント破壊がアーティファクトに宛がわれれば、それは本質的に黒や赤に宛がわれたのと何ら変りはない。このため、アーティファクトはエンチャント破壊能力を持たない傾向にあるのだ。
では、色の定義に使われるほど基本的な効果の多く、それをアーティファクトに使えないとすれば、何をすると言うのか。以下のように、基本を忠実に守ることだ。
第1、マナ生産――マナ以上に普遍的なものはない。どの色もマナを使わなければならない。アーティファクトが恨みがましくマナを生産しに取り掛かっているのもこのためだ。
第2、マナ調整【Mana Fixing:マナフィルターだけでなく、≪極楽鳥≫や≪タリスマン≫のような一部のマナ加速カード――緑マナから五色への飛躍、無色マナから有色マナへの飛躍――をも含む】――これは緑の取り分だが、プレイヤーが多くの色を使えれば使えるほどマジックはより楽しいものになる。研究デザイン部はこれを正当化の言い訳に使って、アーティファクトのマナ調整を他の能力よりもいささか強くしている。
第3、ドロー――マジックはカードゲームだ。そうであるからには、どの色もカードを引くことに関して多少は手を出している。こうしてアーティファクトにまた一つ、「とにかく皆がやってる」という効果が与えられた。
第4、パワー・タフネス増強――私が頻繁に言ってきたことだが、マジックは実際はクリーチャーのゲームだ。そうであるから、全ての色は自分のクリーチャーを増強する何らかの手段を持っているのだ。そしてこれはアーティファクトにとって格好の標的だ。
第5、クリーチャー――どの色もクリーチャーを持っている。一方でアーティファクト・クリーチャーは、有色のクリーチャーが手を付けずに置いていった何か深遠なものを、絶えず探し当てようとしている。
平均的な枚数のアーティファクトが収録されたカードセットを眺めれば、ほとんどのアンコモンのアーティファクトの能力は上記の五つの範疇に収まる、ということに気付いていただけるだろう。幸いにも、我々はレアを残している。
特性6:アーティファクトは珍妙だ
足を踏み外してはいないだろうか。言うならば君たちは違う太鼓の調子に合わせて踊っている。アーティファクトはカラーパイの問題を二つの方法で解決してきた。一つ目はどの色も守っているような基本に従うことで、二つ目はどの色もしていないような物事を探し出すことだ。この未知への冒険によって、アーティファクトは非常に風変わりであるという評価を得ることになった。そしてミラディンのデザインでは、チームは意識的な努力を行ない、単に一風変わっているだけのアーティファクトの多くをアンコモンに引き下げることで、「気違い染みたアーティファクト」のフレーバーをセット全体に浸透させようとしたのだ。ミラディンブロックのアンコモンのアーティファクトが、普段のセットならばレアでしか見られないようなもので埋め尽くされているのも、こういった理由があるからだ。
特性7:一度アーティファクトになったなら、ずっとそうしよう
アーティファクトは正式にはカラーパイの一部ではないが、いくつかのメカニクス上の適所を苦労して確立してきた。これらの中で最も有名なのが、ライブラリーから直接墓地へとカードを置かせるという石臼効果だろう。これは計画されていたのではなく、徐々に変遷していった結果なのだ。ご存知の通り、デザイナーがアーティファクトを作るとき、彼らは過去のお気に入りのアーティファクトを振り返って見る。そしてもしアーティファクトが新しいメカニクスに手を付けると、【その後もデザイナーは過去のアーティファクトを参照するため、】アーティファクトはその能力を自分のものとして獲得していくことになる。これは遅々とした過程だが、新しい発想を獲得するには長い時間がかかることをアーティファクトは分かっていたのだろう。思うにアーティファクトはここ一年の間、「対象のプレイヤー一人をコントロールする」【≪精神隷属器≫の能力。後に黒に何枚か見られるようになる】を虎視眈々と狙っているだろう。
特性8:アーティファクトは機械、つまりコンボの一部になりたがる
マジックのデザインには決まった解答はないので、カードの組み合わせが可能になっている。アーティファクトの不特定マナコストと風変わりな本質は、このコンボの潜在性を十二分に含めている。実際、アーティファクトは全てが互いに作用しあうような複雑なカードの集合体になりがちだ。フィフス・ドーンのデザインチーム、ランディ・ビューラー、アーロン・フォーサイス、グレッグ・マーカス、そして私は、機械デッキの大ファンだったので、フィフス・ドーンではこの主題を特に強く押し出した。
●アーティファクト鑑定
ここまで見てきたように、アーティファクトは多くの因習を抱え込んでいる。それは哲学的なものに限らないし、そもそもアーティファクトの哲学的な因習を監査するのは困難なことだ。本日の記事によって、研究デザイン部がメカニクスと創作の両面でアーティファクトをどのように見ているのか、それに対する読者諸兄の理解が少しでも深まったなら幸いだ。
来週もまた参加していただきたい。来週は……あぁ、何をするのかはまだ決まっていない。まだ君たちの誰一人として伝えていないからだ。
まずどのような仕掛けなのかを説明していこう。二つの投票先があり、一つ目はマジックのデザインに関連した題目のリストで、二つ目はそれ以外の題目の一覧だ。注意していただきたいのは、二つ目のリストの中にはマジックの詳細なものが含まれているが、それらはデザイン過程の具体的なものではない、ということだ。君たちはリストAとBから一つずつ選び、私はそれらを組み合わせて来週の面白いコラムに練り上げる。記事を書く時間を確保するために、三月一日、火曜日の正午を投票の締め切りとさせていただきたい。
さて、以下が君たち全員に示される選択肢だ。特筆しておくと、私が採用するのは寄せられた意見の一割程度だ。なぜそれほどの量が落とされてしまうのかと言うと、その第一の理由は、【諸君の要望するところが】私が既に書いた内容だからだ。私のコラムのファンは是非「メイキング・マジック」の文書保管庫を見ていただきたい。また私は『100回記念 / One Hundred and Counting』と題したコラムを書いたが、そこでは今までの100の記事それぞれに梗概と評定を与えている【記事選びの参考にしていただきたい】。なお、『200回記念』は今年の後期にお披露目する予定だ。題材として選ばれない第二の理由は、将来特定のセットが封切りになる時に書こうと考えているものだからだ。第三は、私がどうもそれを述べようという気にならないからだ。ともあれ以下に見るように、私はかなり奇妙な題目を大量に通過させた。リストA「マジックのデザインに関連した主題」(一つ選ぶこと)
・ワールド・エンチャント
・マジックでは実現不可能なこと
・マナコスト
・私生活がデザインに与える影響
・デザイン上の愚行(間違った方向に設計されたカードやメカニクス)
・≪焚きつけ / Kindle≫や≪集中砲火 / Flame Burst≫のメカニクス【共に赤のインスタント火力。墓地に同名カードがある場合、ダメージが増える】
・多人数戦用のデザイン
・パワーの進化、つまりマジックのカードパワーの水準がいかに発達したか
・アルファ版の「ブーン / Boon」サイクル
・マジック最大の変化で、未だに起きていないもの
・マジック外部の主題がマジックのデザインに与える影響
・研究デザイン部が青をいじめる理由
・種々様々なフォーマットに対するデザイン
・六番目の色の導入に対する賛否両論
・マジックにおける蛙の創造
・新たな種族と職業のシステム
・マジックが先駆的なのはどの点においてか
・シュッとしてないカード【Non-Elegant Cards】
・≪炎の嵐 / Firestorm≫のデザイン【赤1マナのインスタント。手札からカードをX枚捨てる追加コスト。Xの対象それぞれにXのダメージを与える】
・マジック初期の決断(なぜ五色なのか、なぜこれらの基本地形なのか、など)
・公衆がマジックに与える影響
・パワー2で1マナのクリーチャー
・タイミングとテンポとそのデザインに対する影響
・デザインの失敗に学ぶ
・稀少度をなくすとマジックはどうなるか
・「第2回カードを作るのは君だ!」のメカニクスの回で特に優秀だったもの
・青いカードのデザイン
・除去カードのデザイン
・クリーチャータイプの盛衰
・デザインしたカードのワースト10
・全てのカードが自分のカードパワーに釣り合ったマナコストを宛がわれること、それが不可能な理由
・マジックのデザインが紙飛行機の折り方にいかに似ているか
・手札破壊、土地破壊、パーミッションなど、警戒すべきアーキタイプのデッキを見据えたデザイン【これらは非インタラクティブになりがち】
・デザインにおける同時進行【juxtaposition:並列、並置】
・デザイン段階で没になったカード
・コスト軽減のメカニクスのデザイン
・リミテッド用のデザイン
・セットの主題の選択
・人気カードと優良カード、それぞれをどうデザインするか
・多色カードのデザイン
・エンチャントのデザイン
・混沌を生み出すカードの役割
・カラーホイールの変化
・クリーチャー奪取カードのデザイン
・色の展開
・第6版ルールがデザインに与えた影響【リンボ・連鎖がスタックになるなどの大規模なルール変更がなされた】
・アンティという賭けルールのカード、リシドというオーラになれるクリーチャー、≪Nettling Imp≫のように攻撃強制能力を与えるクリーチャー、これらのデザイン
・既存のカードの上位互換や下位互換が印刷される理由リストB「デザインでない主題」(一つ選ぶこと)
・ドラマ『ロザンヌ / Roseanne』
・マジックのデザインが私個人の人生に与えた影響
・スリヴァー
・苗木
・TRPG『Dune Chronicles』【SF小説『Dune』が題材】
・爬虫類
・女の子
・私が主題を選ぶ過程とコラムを作る過程
・私がマジックのデザイナーになった経緯
・ドローに依らないカードアドバンテージ
・新規プレイヤーのための10の必修課目
・ゲームを習う際の落とし穴
・マジックの「古参組【Old School】」
・数学とマジック
・自分のカードが禁止された時に思うこと
・家族関係とマジック(プロプレイヤー・ルーエル兄弟や、画家・フォグリオ夫妻など)
・≪霧衣の究極体≫【全てのクリーチャータイプである青のクリーチャー】
・時間旅行
・デザイナーに推薦したい本
・「マローは気違い」スレ
・イギリスの芸人、モンティ・パイソン
・ルアゴイフたち【墓地のカードタイプや枚数を参照するクリーチャー】
・いかにインターネットがマジックへ影響を与えたか
・TRPG『ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ』
・お金
・恐竜
・愛
・マジックに有袋類がいないこと
・連続ホームコメディが幕間の役者をいかに変えたか
・ロック音楽
・≪強奪する悪魔 / Reiver Demon≫【条件付でクリーチャー破壊する黒のクリーチャー】
・グリーマックス
・不可視のバナナスプリット【バナナのデザート】
・空飛ぶ豚
君たちの選択を見るのが非常に楽しみだ。結果は次週お披露目するので、是非ご参加いただきたい。
その時まで君たちが、無の概念の価値を理解することを願いつつ。
――マーク・ローズウォーター
コメント
このブログの色の哲学の記事に共通していることですが、今回の「Just the Artifacts, Ma’ am」も、re-giantさんの翻訳や他の方の翻訳記事によるところが大きいです。やはり一番最初に翻訳した方の努力に比べれば、私の作業の苦労は大きなものではなかったと思います。
遅くなりましたが、re-giantさんの方こそお疲れ様でした。また、改めまして、勝手ながら訳出の参考にさせていただきました。