前回投稿から間隔が空きましたが、みなさんいかがお過ごしでしょうか。
 今回訳出したのは、二ページに分かれた原文の、そのまさに二ページ目に当たります。一ページ目と二ページ目で本文内容は大差なく、後者では一部の単語にハイライトされている程度なので、片方だけの訳出でも問題なかろうと思います。このハイライトは、太字として訳出してあります。
 また、欄外の記述が多いのも二ページ目の方です。この記述は原文では円グラフや表になっていたりするのですが、文章でも差支えないと勝手に判断し、本文訳の後に配置しました。つまり厳密な意味では今回の訳文は、原文の二ページ目と形式と配置が変わっていることになります。

≪気病める青――問題児への接し方≫
原題:The Troubled One ―― Dealing with the problem child.
Mark Rosewater
2005年3月21日
http://archive.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/mr168

私書箱707、レントン、ワシントン98057
ウィザーズ・オブ・ザ・コースト社
研究デザイン部御中
2002年5月25日

 拝啓、ローズウォーター様。【Dear Mr. Rosewater,】

 非常に重々しい気持ちと、確かな良心を以ってして、貴方にこの手紙を送る次第であります。約12年前に私が子どもを授かった時には、彼らにどんな運命が降りかかるのか、それを想像し心配することなど思いもよりませんでした。貴方一人だけに彼らの幸福に対する責任があるわけではありません、そのことはよく分かっていますが、誰かが起きてしまったことへの責任を取るよう、特に気病める彼に対しては、歩み寄る必要があると思うのです。
 親として私は、もう貴方の振る舞いに我慢することはできません。私が切に願うのは、この手紙が貴方にとって、ご自身の間違ったやり方を直視し、そして事が手遅れになる前に問題を改善するよう適切な対処をする、そうしたきっかけになることです。そのためには、どこから始めれば良いでしょうか。思うに、手始めに責任についていささかお話しするのが良さそうです。何にも増して子どもが必要とするのは、愛情、気配り、保護、そして手引きでしょう。一つ目の存在については私も異存ありませんが、残りの特質はすっかり欠け落ちているように思われます。
 気病める彼の問題、そして同時に要件に関して、取り掛かっていきましょう。

●問題1:貴方があまりにも強い力を与えてしまったこと
 子どもの天性は限界を試すことです。彼らは試みと失敗から学びます。自分たちが遠ざけておくのを許可されたものを以ってして、何が容認されているのかを見定めるのです。彼らは精神に願望を宿した存在でありますから、取れるだけの力を掴み取ることはまさに彼らの特権ということになります。そしてこのことこそ、親としては介入したいと思うところです。つまり貴方は、彼らがしても構わない物事とその手段、これらを制限する必要がある、私はこう言いたいのです。さもなければ、時間は歪曲するように流れ、子どもは支配下できりきり舞いになってしまうでしょう。
 以上のことは現実に起きていることです。気病める彼はあまりに多くの力を溜め込んだので、鼻持ちならないような状態にあります。貴方が彼に最初にすべきことは、貴方自身や兄弟姉妹の全員の今までに関して、時間をかけて遡行させてあげること、これだと思います。別の言い方をしますと、例の問題児が力の配分において過剰の取り分を持っている、それが誰の目にも明らかな状態で、いかにして彼の兄弟姉妹は精神力でそういった状況を乗り越えようという気になるか【、これを一緒に考えていくべきです】。
 貴方は気違い沙汰に終止符を打たなければいけません。気病める彼に、物事には限度があることを知らせてあげて下さい。そして彼らを正し、最後まで付き添い、守ってあげて下さい。どうか彼の兄弟姉妹を、彼らが皆、気病める彼と対等の地位に立つ日がともすればいつか来るかもしれない、という夢で包み込んであげて下さい。

●問題2:貴方が境界線を設けなかったこと
 力の制限と同様に、容認される振る舞いについても親は境界線を設けなければいけません。子どもにとって行なうに相応しい物事もあれば、そうでない物事もあります。もし子どもが何でも自分の望み通りに振る舞えるような放任状態に置かれたりすれば、その子の親は非常に不安定で突然変異的な環境を作り出すことになり、種々様々の問題を引き起こすことになるでしょう。
 私は何も、貴方に対して心理的な打撃を次から次へと浴びせたいのではありません。ですが、どうか聞いていただきたい。気病める彼はまるで、他の兄弟姉妹と同じ規則に従属していないかのように思われます。つまり兄弟姉妹が規則を破ったときは、貴方は特殊部隊のように厳重に処罰するのに、気病める彼が規則を破ったときは、貴方はまるで記憶喪失に罹ったかのような有り様です。貴方は首尾一貫した言行を取るべきです。これに応じないのは恥知らずな意思表現に他なりません。
どうか気病める彼を厳しく叱ってあげて下さい。ご自身が設けた規則を、彼に適用して下さい。生命を一歩ずつ全うすることは積み重ねられた先人の知恵に従うことだと、彼に説き聞かせてあげて下さい。これは穢れ役では決してありません。貴方は彼に貴重な道具を提供するのであって、喩えるならば、後々の大人世界で酸性雨から身を守るのに役立つ雨傘、これを与えてあげるようなものです。

●問題3:貴方がご自身の贔屓のものを使っていらっしゃること
 子どもは大変注意深いものです。彼らは貴方がすることに注目しています。貴方ご自身がもうお忘れになったことであっても、彼らは貴方がなさったことを子々孫々に至るまで覚えているものです。彼らはあらゆる物事に絶えず注視し、意見を交換し合います。そうであるからには重要なのは、貴方がご自身の子どもをみな平等に扱うことです。彼らは意見を交換するほどの力強い意思を持っているのであって、それは必ず彼らに影響を与えるはずだからです。貴方は標準を設けて、彼らが自分自身をどのように考えるかを律しています。もし貴方が絶えず誰か一人を他の子から離れた場所に置き続ければ、貴方の意図がどうであれ、その子が他の子よりも優れていると彼らに間接的に言っているようなものです。
 気病める彼に関して言いますと、私がこれほど露骨な依怙贔屓を目にしたのは学園にいた時以来のことになります。再三再四、貴方は気病める彼にだけ良い目に逢わせてあげようとしますが、それは往々にして歪んだ振る舞いでなされるので、兄弟姉妹に対する図々しい侮辱として受け取られています。これが深い確執を作るということには、貴方に緻密な配慮があれば了承していただけることと思います。関係者全員が貴方のこの偏見の存在を認めることでしょう。
 私に言えることは、もうそんなことは終わりにしていただきたい、これだけです。彼がなぜあのような振る舞いをするのか、貴方は不思議に思っていらっしゃるんでしょう。原因は貴方にあって、貴方が許可しているからです。どうか終わりにして下さい。この点は完璧に貴方の責任です。

●問題4:貴方が気病める彼を駄目にしていること
 寛容であることは価値ある特徴です。しかし空気や水がそうであるように、何事につけても過ぎたるは猶及ばざるが如しです。親としての貴方の芸術的な直観は子どもを養うためのものかもしれません。ですが彼らに多きを与え過ぎると、却って問題を引き起こし、貴方が意図している良き部分さえもすっかり打ち消してしまうことでしょう。
 貴方は気病める彼を過剰な支配の下に置いてきました。このために兄弟姉妹の役割は育まれないままにあります。当然ながら彼らに対立は付き物ですが、言ってしまえば、貴方はクリスマスの贈り物の大半を一人の子にあげてきたようなものです。これは憤りの種となっていますし、現実味のない説明の寄り代になってもいます。力の問題とは必ずしも質的なものに限らないもので、時として単なる量的なものたりうるのです。
 この状況をどのように変異させれば実利的になるか、正直に申し上げますと私には確信するところはありません。ですが思うに、唯一の回答は、振り出しに戻って最初からやり直すことではないでしょうか。どうか気病める彼を公平に扱い、終わりにしてあげて下さい。どうか過去に過ちがあったことを認め、それを正して下さい。それには、彼に事情は変わりつつあると知らせることが必要だと思います。

●問題5:貴方が規則に従っていないこと
 力を制限することは重要です。境界線を設けることも重要です。公平な扱いも重要です。役割の適切な配分も重要です。しかしこのどれについても、貴方が約束を守らなければ何の効果もありません。貴方は一週間で全てを修繕することも、将来に先送りすることもできません。さもなければ【つまり貴方が規則や約束事を守らなければ】、貴方はご自身が思うところとは正反対の教訓を身をもって示すことになるでしょう。そして時間は螺旋状に円環を成して流れ、今のこの事態は貴方の手に負えないまま続いていくでしょう。教訓や規律は、言行一致でなければいけません。矛盾なく遂行される必要があるのです。
 おそらくこれが貴方にとって、気病める彼の持つ最大の問題ではないでしょうか。貴方は確かに変化を作り出すとおっしゃったし、実際にそうなさった。ですが時間の流れは往々にして物事の歪みを引き起こすもので、事実貴方は物事が昔ながらのあり方に戻っていくのを追認し続けました。貴方はご自分のこの所業を無視したいところでしょうが、貴方は何が本当のことで何が間違っていることかに正面から向き合い、そして【ご自分の罪を】潔く白状するべきです。
 一日で気病める彼を一変させることはできません。協調された努力が長い時間にかけて行なわれて初めて、誠実な変化は成し遂げられるものです。もし小手先の対応で済ますようなら、それは【湯船から】溢れ出て【排水溝に】吸い出されていくだけの水のように、無駄にしかならないでしょう。

 私がこの手紙を書いたのは、建設的な意図があったからです。つまりそれは、貴方が気病める彼の問題をきっぱりと解決する様子を実際に目にしたい、というものでした。確かにこれは容易ならざることですし、却って内外に争いを引き起こす可能性もあります。ですが、やはりこれは解決すべき物事だと私は考えます。
 全てが終われば私も、息子の「青色」【The Color Blue】のことを、気病める彼だなんて遠まわしに呼ばずに済むのですから。

――カラー・パイ、敬具。【Sincerely, The Color Pie】


●本題:研究デザイン部が青叩きをする理由
 何たる強靭な愛情だろう!
 研究デザイン部が最近数年間で試みてきたことはすべて、青を他の色と同じ水準に持っていくことだ。青を叩く、ないし苛める【Hosing Blue】というのは、我々の本来の意図ではない。しかしかつての青の立場から今後の青が向かうべき立場を見た場合、確かにカードパワーの点で凋落すると考えられるだろう。研究デザイン部がゲームの他の四色に十分な権能を与えていく、そういった過程を丸ごと想像するのが私は好きだ。よくできる子の「兄弟姉妹」が、彼の作る日陰で生きずに済む方法だ。だがこのことは単に、観点の相違という問題にしか過ぎない。
 では、青のファンに対して、我々が青を叩く理由を説明しよう。それは、青は叩かれ、対策される必要があるからだ。もし心の底からこの理由に納得できない者がいるとすれば、そういった者はかつての青のパワー水準が他の色に対してどのような関係にあったのかを理解していないか、子どもを駄目にするようなゲームで喜んでいるだけ、つまり均衡が取れたカラーホイールの重要性を認めていないか、このどちらかであろう。
 他の色のファンに対しては、以上の理由で納得していただけたと思う。
 これにて、『アーティファクトだけを話して下さい、奥さん』で募集したリストAの話題は終了だ。来週もまた参加していただきたい。君たちが時として許可を貰わなければならないようなカード、それがいかにデザインされるのかを話す予定だ。
 その時まで君たちが、マジックの小童と何かしらの楽しみが持てることを願いつつ。

――マーク・ローズウォーター

●注釈
【この項目自体は訳注ですが、項目の内容は原文で欄外に言及されています】
 本文中で暗示されたカードは、以下の通り。精神の願望。時間の歪曲。時間遡行。精神力。ドリームホール。不安定性突然変異。心霊破。記憶喪失。生命のタップ。酸性雨。祖先の回想。意思の力。トレイリアのアカデミー。緻密な分析。不可思議。直観。対抗呪文。支配魔法。対立。変異種。修繕。時のらせん。時間のねじれ。嘘か真か。マナ吸収。

問題1「あまりにも大きな力を与えすぎたこと」。当時のヴィンテージの制限カードは、白2枚、青13枚、黒8枚、赤2枚、緑4枚だった。

問題2「境界線を与えなかったこと」。当時のヴィンテージ環境で使用可能なカードで、赤単色のカウンター呪文は5枚なのに対し、青単色の直接ダメージ呪文は28枚で、青の方に対して甘く見ている。
5枚の内訳。秘宝破。燃え尽き。紅蓮破。溶岩操作。赤霊破。
28枚の内訳。バキーの呪い。エネルギーの渦。遍歴の下僕。フィードバック。水門。錬金術の研究。大口獣。精神爆弾。海賊船。魔力漏出。放蕩魔術師。心霊破。超心霊体。霊力。精神アレルギー。精神放逐。地の毒。束縛された秘宝。碩学魔術師レヴェカ。反響。ルートウォーターのハンター。有刺障壁。有刺リシド。酸欠。スークアタの火歩き。ソーンウィンド・フェアリー。噴火。ズアーの投呪師。

問題3「贔屓のものを使っていること」。原文発表当時の数年間のセットにおいて、各セットのテーマ、そのテーマに触れる色が挙げられている。構築レベルかどうかはさておきデザインに限ると、青は優遇されていることになる。
 インベイジョンブロックは多色に焦点を当てたが、パーマネントの色や土地タイプを操れるのは≪夢ツグミ≫≪無明の予見者≫≪変容する大空≫などを擁する青。
 オデッセイブロックは墓地のカードに焦点を当てたが、共鳴者こそ各色にあるものの、墓地肥やしが得意なのは≪嘘か真か≫≪打開≫≪セファリッドの円形競技場≫などドローやルーターを擁する青。
 オンスロートブロックはクリーチャータイプに焦点を当てたが、それに触れるのは≪標準化≫や霧衣クリーチャーなどを擁する青。
 ミラディンブロックはアーティファクトを焦点に当て、どの色もアーティファクトとシナジーを持つカードを擁するが、青一色だけが格別良い能力である親和を持っている。

問題4「青を駄目にしていること」。原文発表当時の分析によれば、初期のカラーパイの配分は白10%、青40%、黒30%、赤5%、緑15%。パイの均等化のためには青から赤へと役割が移されなければならず、それは青の相対的地位の凋落と不可分だった。

問題5「規則に従わないこと」。当時のヴィンテージ環境で、3枚以上のドローが可能な青の制限カードは以下の通り。祖先の回想。嘘か真か。時のらせん。時間の歪曲。意外な授かり物。3枚以下のそれは以下の通り。大あわての捜索。噴出。時間遡行。また、コンボに組み込むことで無視できない量のドローをもたらす青の制限カードとして、以下の3枚が挙げられている。ドリームホール。精神力。精神の願望。
これらの初出は、アルファ版、テンペスト・ウルザ期、マスクス・インベイジョン期、デザイアはスカージといった具合に、長きに渡って散らばっている。「規則とは継続性のあるものでなければならない」とカラーパイが糾弾したのも妥当だろう。

コメント

お気に入り日記の更新

最新のコメント

この日記について

日記内を検索