みんな大好きなカスレアについての記事です。体感ですが、長めの記事です。濃いめの珈琲か紅茶を飲みながら読んでいただければ幸いです。

≪レアながらウェルダンなカード――稀少度と実用性の両立≫
原題:Rare, but Well Done ―― Balancing rarity and playability
Mark Rosewater
2002年2月25日
http://archive.wizards.com/Magic/magazine/article.aspx?x=mtgcom/daily/mr9
【原題は「生焼きながら中まで火が通ってる」と「稀少度レアかつ出来の良い」という両方の意味に取れる洒落。どう訳出するのが良かっただろうか】

 インターネットが他の形態のメディアと異なっている点の一つは、その相互接続の要素にある。書物を読んでいる時には、自分の意見を著者に伝える手軽な方法が存在しない。だがインターネットならば、ボタンを押しさえすれば対話を始めることができるというわけだ。
 数週間前、私は『カードが駄目になるとき / When Cards Go Bad』と題した記事を著わし、なぜ駄目なカードが存在するかについて説明を行なった。その記事に対しては大きな反響があり、その大多数は極めて肯定的なものだった。しかしながら私の受け取ったお便りの中には、何か共通の、地下水脈のような不平不満の脈絡というものがあるようだった。この不平不満を端的に表象しているのが、次に引用するテッド・ベッドウェルからの投稿だ。

ローズウォーター様へ。

 最初に申し上げておきたいことですが、私は「メイキング・マジック」の連載記事を心から楽しんで読んでいます。このサイトの中で、最も興味深く洞察に満ちた読み物の一つだと思っています。私は先ほどまで他所の町へ行っていてオフラインの状態にあったので、今こうして記事を読み進めて、最新話まで追い付こうとしています。あなたがネイサン・ウッダールのお便りに対して、あのような非常に長く詳細な記事を投稿していただいたこと、これが私にとって非常に嬉しく思われました。
 私の遊び仲間内では、まさにかの話題についてしばしば話し合います。「なぜ駄目なカードが存在するのか?」という問いに対するあなたの回答は、非常に的を射たものでした。しかしながら、ですよ。私が思うに、あなたはネイサンが提示した肝腎な点について言及し損なっています。それは私の見るところでは、「なぜ駄目なレアカード――カスレア――が存在するのか?」という論点です。私たちの多くはネイサンと気持ちを同じくしておりまして、つまり、気前良く買ったブースターから変てこなレアカードが出てきた時に、奪われた感を抱くわけです。優秀なカードの枚数には限りがある点については私も理解し同意するところですが、しかし、そのためにレアのカード群が癌細胞の大量転移したような有様になるのは、筋違いではないでしょうか。
 私たちアメリカ人ならば皆納得していることですが、眼前には資本制的経済機構が厳然と作用しています。すなわち、あなた方がヨリ多数の悪質なレアカードを印刷するほど、人民は、優秀なレアカードの需要を満たそうとするなら、ヨリ多くのブースターを購入しなければなりません。今私は給料を貰って雇われている身分ですが、どうやらインターネットでシングルカードとして買い揃える方が、ブースターやスターターを開封するよりも、はるかに費用面で効率的になりつつあるようです。これが事実でなければ良いのになと切望しているのですが、私が顧みるに、ブースターという代物は最終的に何の価値も得られないかもしれないという可能性を孕んでいるわけであって、そういうブースターを買ってウィザーズ社に3ドル支払うよりかは、自分の必要なカード1枚1枚に対して5ドルや10ドル支払う方を私はむしろ選んでおりまして、それというのもやはり、引き当ててしまうかもしれない妙ちくりんなレアカード群が主だった原因なんだと思っております。

 このように筆を握ったのも、少しばかりの感想を伝えておきたいと考えたからでございます。ローズウォーター様にとってもおそらく、耳にタコができるほど我々読者から聞かされた話題だったかもしれません。
 私のメールを読む為に時間を割いていただき、ありがとうございました。今後とも引き続きよろしくお願い申し上げます。

――テッド・ベッドウェル
アメリカ合衆国メリーランド州コロンビア市


●私の返答
 テッドへ。
 ご意見ご感想、どうもありがとう。お便りを書く時間を設けるほどまで強く、この話題に関心を持っていただいたようで、私はとても嬉しく思う。「駄目な」カードという話題に取り組んだ際、ネイサンと君の両人が持ち出したレアカード問題をも私は上手に取り繕おうと試みた。今回の記事では、カードがどのように稀少度レアへと仕上がっていくのか、それをヨリ詳らかに論じていこうと思う。「駄目な」カードの記事と同様、今回も普段より幾ばくか文章量の多いものとなる見込みだ。私の長口上な説明に貫徹して付き合っていられない読者は、私の考えを手短にまとめた●要約の段落まで気兼ねなく飛ばしていただきたい。
 研究デザイン部にとってこの話題の最難関な側面は、極めて反目し合った二つの要請を読者諸賢が全体として突きつけてくることだ。第一は、もっと「優秀な」レアカードを印刷してほしい、という要請だ。これはまさにテッドが書いてくれたところに関連した課題なので、後ですぐに触れるつもりだ。そして第二は、希少に感じられないようなカードを稀少度レアとして印刷するのを止めていただきたい、という要請だ。プレイヤーがこの言い方をする時に持ち出される具体例としては、インベイジョンの≪吸収 / Absorb≫【3マナの青白呪文。打ち消しと回復の抱き合わせ】やオデッセイの≪獣群の呼び声 / Call of the Herd≫【3マナで3/3トークンを出す緑のソーサリー。4マナでフラッシュバック】が挙げられる。【つまり、強力なレアカードは大会で多く採用されるので、「頻繁に目にする」「みんな持っている」「ありふれた」ものだから、「希少なカードとは言えない」という主張だ。】これら相矛盾する両方の任務を同時に完遂するのは、おそらく不可能事であろう。
 プレイヤーは「カスレア【bad rares】を無くすこと」を望んではいるものの、「全ての優秀なカードをレアに設定すること」は望んでいない。この二つの折衷案を見出すのは容易ではない。
 なぜ「駄目な」レアカードが存在するのかを理解するためには、どのような過程でレアカードが作られていくかを一瞥する必要がある。それは、カードがレアカードになっていく過程、とも換言できる。私はこれを教育アニメ『スクールハウス・ロック!』のような形式で解説してみたいという風変わりな衝動に駆られているが、それは差し控えるべきだろう。閑話休題。概して、カードは稀少度を念頭に置いて設計されるわけではない。各カードの最適な稀少度に目星が付いて決定されるのは、設計者がカードを作り出す時ではなく、カードが取捨選択されセットが出来上がっていく段階に至っての作業だ。この規則から例外的に振る舞えるのは、デザインかデベロップのいずれかの点において欠番を埋め合わせてほしい、という依頼を受けた設計者だ。欠番を埋める際には、設計者はその求められる稀少度に適切なカードを作る必要がある。
 想像してみていただきたい――君はまさに研究デザイン部の一員で、今回携わったカードセットに向けて設計した一塊のカード群が目の前にある。締め切りが迫っていて、カードを取捨選択して一覧表の初稿を収めなければならない。君はまず稀少度の割り振りから手を付けるのだが、ではどのような性質や特徴を見つければ、カードを稀少度レアに設定すべきだと判断できるだろうか。【以下にその判断基準を列挙していこう。】

●一:カード自体の複雑性
 マジックにおける最も偉大な両天秤策の一つは、幅広い層のプレイヤーを楽しませ続けているという点にある。一方の極には、熟練者プレイヤーがいる。彼らはゲームの複雑性を探究していくことに多大な喜びを見出す。もう一方の極には、駆け出しの初心者プレイヤーがいる。彼らはたった今マジックという世界に足を踏み入れただけに過ぎない。我々研究デザイン部は、後者の集団を怯えさせること無しに、なおかつ前者の集団を満足させるに、一体どうすれば良いだろうか。
 どちらの集団も非常に大切な存在だ。熟練者はマジックのゲームで最も多額のお金を注ぎ込み、公式大会にこぞって熱心に参加する。初心者はゲームの将来性だ。誰もが初心者としてゲームを始める。初心者を蔑ろにすることは、マジックの長期的な健全性を破滅に追いやることになる。
 幸いなことに、この問題の解決策は彼らそれぞれの購買傾向に眠っている。プレイング技術の水準とカードの購買枚数の間には、高い相関関係がある。そこで我々は複雑なカードを稀少度レアにすることで、上級者にはそれらの入手の機会を与えつつ、中級者や初心者にそれらが露見する機会を抑えている、というわけだ。【――熟練度が高いなら購買枚数が多いのであって、購買枚数を増やせば熟練度が上がるのではない。念のため。】
 入り組んだカードは「優秀」にも「駄目」にもなりうる――私がこれらの単語を括弧に入れたのは、先の「駄目な」カードの記事で述べたように、カードの良し悪しを測る基準は非常に主観的で人それぞれのものだからだ。複雑怪奇なカード全てがレアに設定されるからには、当然ながら「駄目な」入り組んだカードはどれもレアカードということになる。最近のセットを概観すると、低評価の複雑なカード――すなわち一定数のプレイヤーにとって「駄目」と測られているもの――としてはオデッセイの≪極悪な死 / Nefarious Lich≫【敗北条件に手を出す黒のエンチャント。デメリットも多い】が挙げられるだろう。このカードは研究デザイン部にとって、レア以外の稀少度に設定するにはただただ複雑過ぎたのだ。
 この分類を締め括るに際して、私は以下のことを強調しておく必要性を感じた。すなわち、入り組んだカードはレアであるべきだが、そうだからと言って、レアカードは複雑怪奇であるべきだとはならない、ということだ。単純なカードはレアであってはならない、という思い違いが巷にはあるようだ。しかし基本セットの重要カードを一瞥すれば、≪極楽鳥 / Birds of Paradise≫、≪神の怒り / Wrath of God≫、≪アトランティスの王 / Lord of Atlantis≫など、レアの枠を占める単純なカードは容易に見つけ出せる。附言しておくと、これらの三枚は第7版時点ではアルファ版からの皆勤賞だった。ここまで読まれた方なら賢察いただけるはずだが、これらのカードは必要だと判断されて、それぞれ異なった理由ではあるが、単純なカードでありながらレアとして印刷されることになったのだ。【それを以後で述べていこう。】

●二:ルール上の複雑性
 この分類は先ほどのものと酷似した働きを行なう。我々の望むところは、熟練者プレイヤーが自分の手札を、複雑なルール間の相互作用を意図したカードで揃えつつ、初心者プレイヤーはそうしたカードから出来るだけ長く距離を置いておける、そういった環境だ。カードの複雑性とルール上の複雑性は幾度となく重なり合う局面があるが、元来これらは二つに明確に分け隔てられる別個の特性だ。
 構想としては単純であるカードが、ルール相互間の非常に複雑な関係を明るみにしてしまうことがある。テンペストの≪謙虚 / Humility≫【白のエンチャント。全クリーチャーが1/1バニラになる】とウルザズ・デスティニーの≪オパール色の輝き / Opalescence≫【白のエンチャント。他のエンチャントを点数で見たマナコストに等しいP/Tを持つクリーチャーにする】という組み合わせが誂え向きの実例だ。【Wikiの「種類別」のページに解説があるので、興味のある方はそちらを参照していただきたい。】また、ルール上の瑕疵はないのに、効果を理解するのが困難なカードもある。アポカリプスの≪生き写し / Dead Ringers≫【黒のクリーチャー除去呪文。対象の黒でない2体のクリーチャーを、その1体がもう1体の持たない色を持つのでなければ、それらを再生不可で破壊する】がそれだ。なおこのカードは、カード文章の雛型が不気味な挙動を示した実例でもある。
 複雑なカードと同様、ルール上の混乱を伴うカードは「優秀」にも「駄目」にもなりうる。もしルール上の相互作用があまりにも複雑になるなら、そうしたカードは本来の実力がどうであれ、レアに設定されなければならない。

●三:冗漫なまでに多い文字数
 マジックの普通のカードは、フォントサイズに9.0を既存の値として採用している。しかし中には9.0では枠に収まらないカードがある。そのような折には、編集係はフォントサイズを7.5の小ささまでなら縮めてもよいと定めている。我々は9.0に満たない大きさのフォントサイズをすべて「微細文字」と呼んでいる。研究デザイン部における標準規則の一つに、微細文字を持つことが許されるのはレアカードだけである、というものがある。もしあるカードの文字数が微細文字を必要とするほど多ければ――そして繰り返しになるが、そのこと自体はカードの【機能の】出来とは無関係なのだが――研究デザイン部は、編集係がフォントサイズを引き上げられるようにカード文章を短くするか、それともそのままレアカードに設定するか、どちらかを選ばなければならない。
 どうかご留意していただきたいのだが、文字数の多いことと複雑であることは、往々にして相互に結びついているが、これらは同じことではない。冗漫であるがそれほど複雑ではないカード、トーメントの≪現実の修正 / Alter Reality≫【青のインスタント。呪文かパーマネントの色を表わす単語1種類をすべて、別の色を表わす単語1種類に書き換える】はその一例だ。このカードはフラッシュバックの注釈文――墓地から唱えて云々――とルール上の注釈文――「この効果は永続する」――の二つを抱えているので、単純な効果を持つにもかかわらず、カード上のルール文章は7行に及んでいるのだ。

●四:大きなクリーチャーや効果
 いつだってレア枠には巨大クリーチャーがいる。
 研究デザイン部が遥か昔に学んだ教訓――それは、プレイヤーは大きい物事を好んでいる、というものだ。ミラージュの≪ファイレクシアン・ドレッドノート / Phyrexian Dreadnought≫【1マナ12/12だが、戦場に出すのに一手間かかる】のような厄介で手に負えない巨大クリーチャー。インベイジョンの≪抹消 / Obliterate≫【打ち消されることのないリセット呪文】のような強力な大規模呪文。この二つの類型のカードは、【リミテッドで】プレイヤーが毎回と呼べるほど頻繁に遭遇できるような類いのものではない――そう判断した我々は特別性を維持するために、これらのカードをレアに設定するようにしている。
 この分類のために、しばしば単純なカードがレア枠へと送り込まれている。巨大クリーチャーや広範囲に及ぶ一掃効果は、複雑である必要がない。具体例はトーメントの≪天罰の天使 / Angel of Retribution≫【7マナ5/5飛行先制攻撃】やオデッセイの≪心の傷跡 / Traumatize≫【誰かのライブラリーの半分を墓地送りにする呪文】だ。大味なクリーチャーや呪文の多くは、消費者観衆の中の一部を占めているプレイヤー、すなわち研究デザイン部が「ティミー」という愛称で呼んでいる類型のプレイヤーへと、照準が定められている。ティミーは1枚1枚のカードが全体の中ではどの程度の水準にあるのか、それほど強く気にかけないもので、彼らは平均的には、競技環境では遊ばないものだ。かくして研究デザイン部は、ティミー好みの大味なカード全てを競技水準にしなければならない、という心的負担から自由である。競技志向のプレイヤー、すなわちスパイクは、ともすればこれらを「駄目な」レアだと思うかもしれない。しかし実際には、これらに心を踊らされるようなプレイヤーもマジック界隈の中には存在するのだ。
 余談ながら、研究デザイン部が想定するプレイヤー類型に関しての詳論は、今後記事にする予定なので、楽しみに待っていただきたい。

●五:画期的で注目に値すること
 大きさだけが全てではない。プレーンシフトの≪終末の死霊 / Doomsday Specter≫【攻撃が通る度に相手の手札を見て任意の1枚を捨てさせる】はP/Tが2/3で決して大きくないが、非常に格好良く仕上がったクリーチャーだ。オデッセイの≪汚れた契約 / Tainted Pact≫【ライブラリーの頭から順に追放し、その1枚を手札に加えるか選択できるが、欲張ると何も手に入らなくなってしまう】は効果が限定的だが、非常に独創的な呪文だ。これらのようなヨリ小さなカードであっても、格別な能力や効果を持っていればレア枠に収まるに相応しい――研究デザイン部はこう考えている。
 例えば、私がしばしば受け取る質問の一つに、プレーンシフトの≪終止 / Terminate≫【黒赤のインスタント。任意のクリーチャー1体を破壊】をコモンにしておきながら、アポカリプスの≪名誉回復 / Vindicate≫【白黒のソーサリー。任意のパーマネント1つを破壊】をレアに設定したのはなぜか、というものがある。これに対して回答すると、「対象のパーマネント1つを破壊する」というのは特別な効果だからだ。【原文執筆当時では】八年間のマジックの歴史で6000枚余りのカードを我々は作ってきたが、この効果を持つカードは≪名誉回復≫を含めて僅か二種類しか存在しない――もう一方は倍のコストを持つ≪砂漠の竜巻 / Desert Twister≫だ。対照的に「対象のクリーチャー1体を破壊する」という効果は、どのエキスパンションでも数多く見受けられた、ありふれた出来事だ。≪砂漠の竜巻≫はアンコモンだったではないか、と指摘する者が君たちの中にいるかもしれない。確かにそれは事実だが、しかし一度印刷されたあるカードが、その後のカードを規定するような慣例として定着することは滅多にないのだと、私は強調しておきたい。
 大袈裟なクリーチャーや呪文と同様、この分類もまた非常に主観的にカードを識別させる。今まで一度もなされなかった物事を行なうカードに血沸き肉躍るプレイヤーもいるだろうし、そのカードは競技水準のデッキに一度も採用されなかったから「駄目」だと煙たがるプレイヤーもいるだろう。

●六:用途が限られている
 マジックにおける設計の売りの一つは、用途が狭く限られているカードの存在だ。ある種のカードは、明確な目的を持った機能を非常に効率良くこなしてみせる。そういう効果を必要とするようなデッキが現れれば、そのカードは環境で使われるようになるだろう。だがどのデッキも使い道を見出さなければ、そのカードは綴じ込み冊子の中に安置されることだろう。このような狭い使い道のカードは、「優秀」と「駄目」の垣根を跨ぐように座り込んでいる。例えばウルザズ・デスティニーの≪寄付 / Donate≫【自分のパーマネント1つを対戦相手1人に押し付ける】は、デベロップチームから「あまりにも狭過ぎる」として差し戻された無数の草案の一つだ。現在では≪寄付≫はエクステンデッド指折りのデッキの鍵となる役割を果たしており、その適所を得たと確信を持って言えるだろう。
 用途の狭いカードは、主として構築環境のために起案されている。そうであるからには、これらは往々にしてリミテッド環境では仕事をしない。この場合研究デザイン部は、リミテッドで何の適応力も持たない、狭い用途の構築環境向けのカードを、レア枠に設定することにしている。この手のカードで古典的な実例なのが、アイスエイジの≪Despotic Scepter≫【独裁の王笏。自分のパーマネント1つを破壊するアーティファクト】や、ミラージュの≪ライオンの瞳のダイアモンド / Lion’s Eye Diamond≫【0マナのマナファクト。サクると3マナ出る上に手札も捨てられる。】だ。これらはいずれも、強力なデッキ【――原文発表当時だと、ステイシスやバーゲンか――】に完璧な居場所を見つけ出したカードだ。

●七:リミテッド環境を破壊する
 マジックの設計における苦心の中に、次のようなものがある――カードパワーの水準がそれぞれ異なるフォーマット、それらへ全く同時に投入することを想定して我々はカードを実際に設計している――こういった苦心だ。具体的には、カードパワーは漸次、シールド、ドラフト、ブロック構築、スタンダード、エクステンデッド、Type1という順に増大していくものだ。
 最も厄介なのが、リミテッド環境のカードパワーは構築環境のそれに比べて著しく劣っている、という点だ。この二つの力量差があまりにも明瞭なため、研究デザイン部は実のところそれぞれの環境に特化したカードを作らざるをえない――念のために附言しておくと、我々が両方の環境で通用するようなカードを作ることができない、と言っているではない。さて当然ながら、環境に特化したカードを用意すると、それはそれで数多くの問題を引き起こすことになる。その最たるが次のようなもので、すなわち、構築環境で最も強力なカードがリミテッド環境を徹底的に荒らしてしまう、いかにして研究デザイン部はそういう危機的状況を回避することが可能か、という問題だ。
 これに対する回答は、厄介で手に負えないカードをレアにすることで、リミテッド環境に対する影響を最小限に抑える、というものだ。留意していただきたいのだが、このようなカード全てが競技水準というわけではなく、構築では「ファンデッキ」止まりのカードだが、リミテッドでは度が過ぎるような怪しく胡散臭い挙動を行なうもの、これもまた含まれている。この分類が「駄目な」レアカードを作り出すのは、リミテッドでは獅子奮迅の働きをするものの、競技水準には及ばないようなカードが存在するからだ。概して、先述したように、これらは「ファンデッキ」水準として構築環境では扱われる。インベイジョンの≪点火するもの、デアリガズ / Darigaaz, the Igniter≫【このドラゴンの総マナコストから赤1点分を差し引くと、≪魂売り≫とかいう稀代の化け物になる】やオデッセイの≪セファリッドの皇帝アボシャン / Aboshan, Cephalid Emperor≫【『デュエマ』でミミちゃんが使ってた】が、この種のレアカードの実例になると思われる。

●八:アンコモンに空きがない
 さて、これ以降の分類は、研究デザイン部の外部の者にとっては説得力がいささか欠けて映るかもしれない。先述したように、カードは傾向として、まず起案・設計され、後ほど稀少度を宛がわれる。大雑把に言ってしまえば、カードは以下のいずれかの種類に分別される。「コモンでなければいけない」、「コモンでもアンコモンでもいけそうだ」、「アンコモンでなければいけない」、「アンコモンでもレアでもいけそうだ」、「レアでなければいけない」、そして「コモンでもアンコモンでもレアでもいけそうだ」――最後のような分類を設けるべきではないが、青い月が見えるほど長い間で、こういうカードが現れたのが一度だけあったのだ。【訳注:この「青い月 / a blue moon」は「長い期間」を意味する慣用表現であって、≪蒼ざめた月 / Paled Moon≫のことではないはず。それにしても、稀少度がどれでもいけそうな一枚は、何だったのだろうか?】
 デザインないしデベロップの段階で、往々にして稀少度の一つは定数超過を迎えてしまう。その場合、研究デザイン部は融通の利く可変的なカードを何枚か取り上げ、稀少度を上下させることで事態に適応している。頻繁に見受けられる光景なのが、アンコモンのカードをコモンやレアへと変更させる作業だ。なお覚えておいていただきたいのだが、このアンコモンという稀少度には、僅かに複雑ではあるが、リミテッドで使われてほしいと我々が考えている、そういうカードが詰め込まれている。ともあれこうして、潜在的にはアンコモンでありえたようなカードが――そしておそらくそれでも「駄目な」アンコモンだっただろうが――空きがないためにレアカードとして仕上がることがある、というわけだ。

●九:サイクルの一部
 サイクルとは、メカニクス上で、また往々にして主題に関して、一貫した関係を持つカードの集合を指す。サイクル最大の共通点は、五色それぞれに一枚ずつ宛がわれることだ。≪生命の噴出 / Life Burst≫、≪霊気の噴出 / Aether Burst≫、≪精神噴出 / Mind Burst≫、≪集中砲火 / Flame Burst≫、≪筋力急伸 / Muscle Burst≫からなるオデッセイの噴出サイクル【墓地にある同名のカードを参照する】が分かりやすい事例だ。研究デザイン部の規則の一つに、サイクルを形成するカードは全て同一の稀少度に設けるべし、というものがある。他の規則と同じく、我々は折に触れてこの規則を破ることがあるが、しかしそうするのは何か特別な理由があってのことであり、また極めて散発的に行なわれるに過ぎないのである。
 この分類に当て嵌まる誂え向きのカードは、オデッセイの≪影魔道士の浸透者 / Shadowmage Infiltrator≫だ。オデッセイには11枚の多色カードが収録されている。友好二色の組み合わせのサイクルがアンコモンとレアに一つずつ存在し、残る1枚は五色カードの≪アトガトグ / Atogatog≫だ。アンコモンは≪ファンタトグ / Phantatog≫、≪サイカトグ / Psychatog≫、≪サルカトグ / Sarcatog≫、≪リサトグ / Lithatog≫、≪ソーマトグ / Thaumatog≫からなるエイトグのサイクルだった。エイトグではない≪影魔道士の浸透者≫は、どれほど「アンコモン水準のように思え」ても、レアのサイクルに組み込む他なかった。
 サイクル中のカード全てが、同じサイクルの他のカード全てと同等の力を持てるわけではない。よって、どんなサイクルについても、もしエクソダスでの≪ドルイドの誓い / Oath of Druids≫に相当する大当たりのカードを見つければ、時としてその傍らには≪魔道士の誓い / Oath of Mages≫に相当する頭数合わせのカードを見つけられるはずだ。

●十:優秀なカードを全ての稀少度に散らばせる
 仮にこれらのカードがレアであったなら、「優秀なレアカード」の枚数は増えていたことだろうが、しかし喜ばしく思うプレイヤーの人数は減ったことだろう。【訳注:原文ページの画像が消えているので「これらのカード」の詳細は不明。≪Sinkhole≫や≪強迫≫や≪稲妻≫のような、強力なコモンカードが挙げられていたと推測】
 この分類が設けられたのは、研究デザイン部が鍵として抱く信念に基づく――すなわち、「優秀な」カードは全ての稀少度に拡散されているべきだ、という信念だ。もし全ての「優秀な」カードがコモンに設定されていれば、ウィザーズ社はマジックを印刷し続けるのに必要な利益を得ることが不可能になるだろう。逆にもし全ての「優秀な」カードがレアに設定されていれば、我々は新規参入者に対して非常に大きな障壁を作ることになるだろう。研究デザイン部はこれらに折衷案を定めた。一部の「優秀な」カードをコモンやアンコモンに設けることで、ゲームへの参加を容易にし、また別の「優秀な」カードをレアに設けることで、マジックへヨリ多くのお金を費やすプレイヤーに利益になるようにした。
 君たち読者がお便りで指摘した肝腎な点の一つは、私の耳にタコができているはずだとも言われた指摘だが、それは以下のようなものだった――研究デザイン部はもっと多くの優秀なカードをレアに割り当てるべきだ、と。こうすればブースターを買うのがヨリ経済的になると思われるかもしれない。しかしながら私は、正直に言うと、この発想に対しては気が落ち着かない。例えばシングルカードの流通市場において、全コモンが25セント、全アンコモンが50セント、そして全レアが1ドルという価格であると仮定しよう。これが大雑把で極端な単純化であるとは重々承知しているが、私の問題意識を素描するには事足りるはずだ。さらに、各エキスパンションには60枚の「優秀な」カードが収録されていると仮定しよう。繰り返しになるが、これらの数字はあくまでも思考実験として、霞から取り出したものだ。
 現行の研究デザイン部の体制下では、その優秀なカード60枚は各稀少度に散らばって配分されている。やはり単純化のために、コモン・アンコモン・レアそれぞれに20枚ずつ宛がわれているとしよう。私の推測では、君たちは「優秀な」コモンとアンコモンは少なくても構わないはずなので【――「優秀な」カードがレアとして印刷されることや、カスレアが少なくなるのを望むこととは、こういうことのはずなので――】、君たちは優秀なカードの配分がコモン10・アンコモン10・レア40くらいであることを望んでいる、と仮定する。君たちがこの60枚を一通り揃えようとすると、研究デザイン部の現行の設定では25セントが20枚、50セントが20枚、1ドルが20枚で、合計35ドル必要になる。他方で君たちの望むような配分では、25セントが10枚、50セントが10枚、1ドルが40枚で、合計48ドル必要になる。デッキ構築の選択肢を最大化するために各カードを4枚ずつ場合には、研究デザイン部の設定では140ドル必要だが、君たちの理想では192ドル必要だ。ここで注意していただきたいのは、各稀少度の「優秀な」カードの価格設定には、私が仮定したような上限は現実には存在しないという点だ。とどのつまり現行の研究デザイン部の体制は、「優秀な」カードをヨリ経済的に入手することを可能にしているのであって、決してその逆ではない。

●終わりに
 ご覧のように、どのカードをレアとして選定するかには、多くの観点が存在する。「駄目な」カードの記事で説明したことだが、研究デザイン部にとって、ゲーム全体のカードパワーを押し上げることなく印刷できる「優秀な」カードの枚数には限りがある。研究デザイン部は「優秀な」コモンやアンコモンをレアに格上げさせることができるものの、これは単に、「優秀な」カードを入手するための必要経費をいたずらに高額にするだけだ。またこれはこれで、レアっぽくないカードがレアとして印刷されることになるので、そのようなレアカードを持たされるのが嫌いなプレイヤーはヨリ一層心を掻き乱される破目に陥るだろう。
 これは簡単な回答がない、非常に複雑な話題だ。君たちが寄せてくれた問題が存在するのは、研究デザイン部がそれに対して無頓着だったからではなく、それを改善するための明瞭簡潔な手立てがないからだ。つまり「駄目な」レアが存在するのは、「優秀な」カードを全ての稀少度に散らばせるためには「駄目な」カードをも同様に全ての稀少度に配分させる必要がある、こういう事情に起因している。また、「優秀」であれ「駄目」であれ、ある種のカードはレアとならざるを得ないような特異な性質を持っている、ということも附言しておこう。
 以上の論述が最も要領の良い回答であるとは、もちろん私も思っていないし、むしろ論点を乱雑にしてさえいると思う。もし短く回答するとすれば、我々は最善を尽くしている、といった感じになるだろう。今回の記事が読者諸兄にとってカスレアの存在意義を理解する一助となったなら幸いである。

●要約
 手短に書くと、カードがレアとして設定されるのは、以下の理由に基づく。
・1:コモンやアンコモンにするには複雑過ぎるから。
・2:コモンやアンコモンに置くのが躊躇われるような、ルール上の複雑性を持っているから。
・3:文字数が多く、ヨリ小さなフォントの微細文字を使う必要があり、またそれはレアカードに限って使えるものだから。
・4:大味なクリーチャーや呪文であり、特別性を維持するためにレアである必要があるから。
・5:洗練された独創的なクリーチャーや呪文であり、その格別さを維持するためにレアである必要があるから。
・6:リミテッドではなく、構築環境の、それも特定の狭い目的のために作ったものだから。
・7:シールドやドラフトで明らかに悪影響を与えるものなので、レアに設定することで、リミテッド環境におけるそのカードの存在感を最小限に抑えられるから。
・8:アンコモンにもレアにも設定することができたが、アンコモンの枠が残されていなかったから。
・9:レア枠を使ったサイクルの一つだったから。
・10:三つの稀少度に万遍なく「優秀な」カードを行き渡らせる意図があるから。

 先日の「駄目な」カードの記事と同様、君たちのご意見ご感想が寄せられるのを私は楽しみに待っている。自分の意見を表明したい方は、掲示板へ是非お越しいただきたい。私も書き込みには目を通すつもりだし、何か新しく付け足したい時や質問があった時には、議論に参加していこうと思っている。
 来週もまた参加していただきたい。伝説として名高いエキスパンションについて探究を深めていくつもりだ。
 その時まで、唱えるのに充分なマナが揃わない内から、高価な呪文を引き当ててしまうことのないよう願いつつ。

――マーク・ローズウォーター

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